
日本学術会議の薬学委員会(委員長:橋田充京都大学大学院薬学研究科教授)は5日、「薬学分野の展望」の報告書を公表した。報告書では、在宅医療などを通して地域医療に貢献する薬局や薬剤師の重要性を指摘すると共に、そうした取り組みを支援するための体制整備も求めている。また、新たな教育制度のもとで行われる大学院教育について、学部教育からの一貫した教育体制の構築や教育内容の整備に向け、教員の数や質の確保が極めて重要としている。
薬学委員会は、「日本の展望委員会」を構成する14の分科会の中の「生命科学作業分科会」の下にある九つの委員会の一つ。各委員会がまとめた報告書をベースに、生命科学作業分科会は提言を作成した。
薬学分野の報告書は大きく、▽薬学の中期的な展望と課題▽グローバル化・情報化への対応▽社会のニーズへの対応▽これからの人材育成――の四つのテーマで構成されている。
社会ニーズへの対応の中の「地域医療と薬剤師」では、地域医療を支えるための協力体制の構築が求められる中、病院薬剤師や薬局の役割を見直す必要性を指摘。在宅医療を主に担当することになる開局薬剤師には、検査値などに基づく医薬品の効果・副作用発生のチェックも含めた、患者の病態・治療状況の的確な把握と、医薬品情報に基づいた処方の支援、さらに、輸液など在宅医療に対応するための高品質な医薬品の調製などが求められるとした。
その上で、基幹医療機関および地域医療機関に所属する医師やコメディカルと、薬剤師との密接な連携体制を構築するシステムの整備を求めた。
6年制と4年制学部課程を併設する、新たな薬学教育制度に基づく大学院教育の再構築に当たっては、教員数や教員の質確保といった教育体制の整備と不可分であることを強く認識する必要があるとした。
また、少子・高齢化社会を見据え、小児や高齢者に対する適切な薬物療法の確立も求めた。
成人を対象として開発された医薬品では、小児での有効性・安全性が確立されている例は少なく、多くの場合、適応外使用として小児の治療に用いているのが現状であること、高齢者では多くの疾患を併発していることもあり、相互作用などの問題が生じている。そのため、小児および高齢者の薬物治療において、情報を収集・解析した上で、臨床研究・基礎研究を進め、医薬品の適正使用を推進することを望むとした。
薬剤師の育成数についても言及。薬剤師は製薬産業をはじめ、多様な職種に就くため、「不確定な要素もある」としながら、薬剤師教育が実務実習などで医療現場に負荷をかけることも踏まえて、数的に過剰な教育体制にならないよう十分な検討が必要とした。