医薬品や医療機器、医療技術の費用対効果を判断する医療技術評価(HTA)への関心が、世界的に高まっている。税方式、社会保険方式、民間保険方式など国によって医療制度の骨格は異なるものの、医療費が高騰する中、限られた財源をいかに効率的に活用するかという課題は同じだ。効果に見合った価格設定や保険償還の可否判断にHTAを利用する国が出てきている。
一方、日本では今後、HTAを医療保険制度にどのように活用していくのか。2年前から本格的な議論が始まったが、いまだにその方向性がはっきりしていない。
2012年度の診療報酬改定の附帯意見に「革新的な医薬品等の保険適用の評価に際し、算定ルールや審議のあり方も含め、費用対効果の観点を可能な範囲で導入することについて検討を行うこと」と記載されたのが議論の発端だ。
これを受け、中央社会保険医療協議会の関連組織として12年5月に費用対効果評価専門部会が設置され、医療保険制度における費用対効果評価導入のあり方について討議が進められてきた。
同部会におけるこれまでの討議の結果、どの医療技術を対象にするのか、その原則が確認された。しかし、HTAを価格設定に使うのか、保険償還の可否判断に使うのかは決まっていない。また、効果の指標として世界的には、QOLの程度を考慮した生存年数延長効果を表す「質調整生存年」(QALY)が重用されているが、日本でどの指標をどのように活用するのか、結論は出ていない。
現在、同部会は具体例を用いた検討を進めている。医薬品については、05年度以降に有用性加算がつき、海外で費用対効果評価が行われた品目のうち、予測ピーク時売上高が大きい5品目を対象に、費用対効果に関するデータの提出を製薬会社に要請。提出データの再分析を今月末までに行うことになっている。
14年度診療報酬改定の附帯意見でも、今年6月に閣議決定された日本再興戦略改訂でも、16年度の診療報酬改定におけるHTAの試行的導入が示されている。来年には議論が本格化する見通しだ。
議論の行方は定かではないが、おそらく当面は、革新的な医薬品について既存の薬価算定のあり方を基本としつつ、価格設定の参考としてHTAが活用される程度にとどまるのではないか。
HTAは薬剤費抑制につながるため、製薬会社は基本的に導入には反対している。患者も医薬品へのアクセスが制限されることには反対だ。実際に保険償還の可否判断にHTAを活用する英国では、必要な薬物治療を受けられないとして患者から猛反発を受けた。その後、HTAを価格設定に利用するなど柔軟な運用が図られるようになった。
先行する海外でも試行錯誤が続く現状だが、社会保障制度を長く維持するにはHTAの活用が欠かせない。日本でも将来は、本格的な活用は避けて通れないのではないか。今はそれに向けた地固めをしっかり行うべきだろう。