星恵子(聖マリアンナ医大客員教授、昭和薬科大学教授)
WHOは乳児死亡率の低さや世界一の長寿国であることなどを総合的にみて、日本の国民健康達成度は世界第一位であると評価しています。その一方、日本の総医療費は先進5ヵ国のうちでは最も少なく、日本の医療費の対国内総生産比は先進国の中でも平均以下です。それにも関わらず、世界でも最高水準の医療が受けられるのは、皆保険制度と医師の慢性的な過剰労働、そして、医療に携わる人々の献身的な態度によって成り立っているように思えます。
しかしながら、国民のほとんどはWHOよる国民の健康達成度が、日本が世界一であることを知りませんし、患者さんの満足度も高くないとなれば、医師の多くは働いても働いても何の励みもなく、ただただ疲労のみが募ります。
これでは、患者さんも医師も共に不幸です。何が要因なのでしょうか。いろいろ考えられますが、一番は患者と医師との信頼関係の欠如です。医師側の要因として?患者さんの気持ちを受け止める能力が低い、?いつも仕事に追われ、時間的にも精神的にもゆとりが無い ?事実、医療事故が起きている、などがあげられます。
また、患者側の要因として?自分に都合がよいように解釈し、理解しようとしない ?あるいは、過剰に反応する ?分からない場合は遠慮しないで聞く(応えてくれない医師であれば変えてもよい)など、双方の意思の疎通が十分でないからだと思われます。
もう一つの要因は経済面です。いずれの病院も収益を上げなければなりません。手っ取り早いのは人件費を削ることです。昨今、日本有数の会社も斜陽になるとリストラを行ないます。医療にはマンパワーが必須ですが、医師が辞めても補充されず医師の長時間労働が常態化していったと思います。
これは過労による判断能力の低下を招き、医療事故の危険性を高めています。ただし、最近の傾向としては、過酷な労働に疲弊して病院を辞めていく医師が増え、医師不足が叫ばれ始めています。
医療の安全確保、高齢化社会に向けた医療、先進的な高度医療、難病に対する医療、予防医学等々、いずれをとっても、医療とは手間と時間とお金がかかるものです。国民がいて日本という国が成り立っていると考えれば、どんな時代であっても国は医療に手厚くなければならないと思います。