薬学教育協議会がまとめた今年3月の6年制薬学部・薬科大学の就職調査によると、卒業生の進路で就職しなかった学生総数が昨年度から大幅に増え、非就職者と未定の人が昨年度の1.8倍増となった。第100回薬剤師国家試験の合格率の低さを反映したものと分析されているが、同協議会は「薬学の将来にとって憂慮すべき傾向」と異例の警鐘を鳴らした。
進路で薬局が最も多い傾向は変わらず、初任給は26万円以上と高い。ドラッグストアも30万円以上の厚遇で学生を確保している状況に変化はなく、薬局とドラッグストア等で卒業生の約4割を受け入れている。一方、製薬企業への就職は減り続け、開発・学術はわずか3%、MRを含めても全体の1割にとどまる。もはや製薬企業への就職は狭き門だ。
では、薬局を志望する学生の意識はどうか。半数以上が入社応募のエントリーを1社に限定していることが、薬剤師国家試験予備校「薬学ゼミナール」の調査で示された。ドラッグストアの志望者に至っては、エントリーを1社に絞り込む学生が65%に達するという。新卒薬剤師採用の売り手市場はとどまるところを知らず、あまりのバブル状態が学生、企業の双方のモラルを麻痺させているのではないかと考えてしまう。
就職しない学生と就職が決まっていない学生の急増は、せっかく6年制教育を受けて薬剤師免許を得ても、それを社会で生かせない人材が増えていることを意味する。薬剤師不足を訴える薬局、ドラッグストアは高給で学生を囲い込み、学生は1社だけ受験して就職を決めてしまう。この状況をどう考えるかだ。
国が打ち出す薬局と診療報酬改定の方向性は、“門前薬局”を減らし、かかりつけ薬局に再編していくというもので、いずれ薬局の淘汰は避けられない。現状の数の受け皿がなくなったとき、就職が決まらない学生が増え続ければ、需給バランスはあっという間に逆転する。
ベテラン病院薬剤師からは「給料で安易に就職を決めてしまう学生が多い」との嘆きも聞かれる。医療現場の最前線で激務に耐えつつ醍醐味を味わうよりも、サラリーマンのような生活を選んだ方が得だというわけだ。学生もそれを求め、企業もそれでいいと考える。こうした歪んだ状況を是正しない限り、薬剤師余剰時代の到来は避けられないだろう。
同協議会の調査結果では、多くの卒業生が患者と直接触れ合う医療現場、薬剤師免許を活用できる職種を目指していた。その初志を大切にすべきは、企業側も同じである。社会人の一歩を踏み出す側、受け入れる側の双方が中途半端な考えでは、社会に認められる薬剤師を輩出できるはずもない。それは学生を送り出す大学側にも当てはまる。今回の調査結果を真剣に捉え、全ての薬学関係者が将来を再考するきっかけにしたい。