製薬企業篇
強いリーダーを育てる‐他部門異動でスキル養成
グローバル企業のMSDが目指すのは、組織を牽引する強いリーダーの育成だ。有能な若手社員を早期に抜てきし、中間管理職やシニア層には多くの部門を経験させ、グローバル水準のリーダーへと育てる。取締役執行役員人事部門統括兼人事部門長の太田直樹氏に聞いた。
――人材採用の状況。
新卒社員は、例年20~40人を採用し、中途採用はビジネスの状況に応じて採用を行っており、昨年は65人が入社した。新卒と経験が浅い中途採用者に対しては、将来の可能性を期待する「ポテンシャル採用」が主体である一方、特定分野で経験を積み、高い専門性を持った中途採用者については、「プロフェッショナル採用」として即戦力で活躍していただいている。
ただ、経験豊かなシニア層だからといってポテンシャル採用がないわけではない。スペシャリストとしての経験を買い、当社で組織を牽引するリーダーとしてキャリアを拓く採用も行っている。
今後は、ヘルスケア業界外で活躍した人材にも目を向け、意欲的に採用していきたい。ヘルスケア業界とその異業種の間には、垣根がなくなりつつあり、ITやメディアといった異業種企業との共同事業を模索する時代が訪れている。われわれも積極的に新たなビジネスに取り組んでおり、新たな発想を持った人材探しに注力していきたい。
――人材育成における最優先課題は。
グローバル水準の強いリーダーを育てることと、多様な人材が実力を発揮できる組織をつくることの二つに軸足を置いている。MSDが掲げる10年の長期経営戦略でも、この二つは重要な柱だ。
MSDの人材育成では、プロフェッショナルになるための良質な教育機会は均等に与える一方、リーダー育成に向けては差別化された教育を提供している。研究者や営業、人事など各部門における専門教育は、社員全員に対して提供している。ただ、リーダーとしての成長機会については、用意された役職に限りがあることから、素質を持った人材を早期に抜てきして教育を行い、集中的に投資していく方針だ。
――強いリーダーを育てるためのアプローチは。
シニア層、中間管理職については、一つの部門で長年経験を積んできた人材であっても、他部門に異動させて他流試合をさせている。これにより、マネジメントの幅を広げ、これまで遭遇しなかった未知の問題に直面した場合でも、対応できるスキルを身につけてもらうのが狙いだ。
ビジネス経験が3~8年程度の若手社員向けには、次世代リーダー候補を育成する「ジャパンリーダーシッププログラム」を通じて、10年かけて経験する業務を3年に凝縮して加速度的に成長を促し、将来のリーダー候補を発掘していく。
――リーダーにこだわる理由は。
リーダーを育てるためには、困難な経験をさせる、困難を克服させる経験をさせる、できるだけ上位の経営層との接点を増やし、部門をまたぐ全社レベルの仕事を経験させなくてはいけない。
MSDは月例で役員会議を行っており、全体のおよそ3分の1の時間を人材に関する議題に費やしている。営業や開発、財務、人事など各部門を統括する役員からリーダー候補となる人材を推薦してもらい、他部門で欲しい人材がいれば指名できるようにするなど、全社的な共有を図っている。能力が高い人材は部門で囲い込むのではなく、部門間で連携して人材育成を行っていく必要がある。
――多様な人材が活躍できる組織づくりは。
当社では“ダイバーシティ&インクリュージョン”という取り組みを推進している。優秀な人材を獲得しようと思うのであれば、国籍や性別、信条にとらわれずに、実力本位で人材を獲得しなければならない。異質なものがぶつかり合って、新しいアイデアが生まれてくるからだ。
多様な人材を集めるダイバーシティに加え、多様な人材が同じ環境の中で能力を発揮できるインクルージョンも必要だと思っている。勤務時間や勤務場所に制限が少ない環境を整備している。
特に2014年に設立した日本MSDでは、転勤をしないで働けるという多様な就業形態の選択肢を提供している。社員の多くは、転勤をせずに希望した勤務地で働きたいと思う時期があり、状況に応じて利用してもらうことを目的としている。地方勤務にこだわらない働き方ができるようになれば、全国転勤型を再度選ぶことも可能だ。