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【TGN1412事件】見逃したIL‐5、6の高産生

2007年12月12日 (水)

関連検索: TGN1412 日本臨床薬理学会

 TGN1412事件から1年以上が経過した。そのの毒性試験結果が先に開かれた日本臨床薬理学会年会で報告され、IL”5とIL”6の高い産生が起こっていたことが明らかとなった。松本一彦氏(鳥居薬品常勤顧問)は、毒性試験の結果を踏まえ、非臨床段階で「IL”5とIL”6が顕著に増大している」と警告を出す必要があったとの見方を示した。また、毒性試験では1時間程度かけて投与したのに対し、第I相試験では4分間の急速静注が行われていたことから、「非臨床試験の結果が無視されている。試験結果を臨床開発に反映できていればサイトカインストームは起こらなかったかもしれない」と指摘した。

 TGN1412は、T細胞表面のCD28に結合するスーパーアゴニスト抗体。T細胞レセプターに対する抗原特異的な刺激がなくても、単独でT細胞を活性化することができる。

 普通、T細胞が活性化されるには、抗原特異的なT細胞レセプターに対する刺激と、CD28ファミリーなど、T細胞補助シグナル分子が抗原非特異的に刺激されることが必要。T細胞レセプターを介した抗原認識シグナルがなく、T細胞補助シグナル分子を介したシグナルが伝えられても、T細胞は活性化することができない。また、T細胞レセプターを介した抗原認識シグナルだけが伝わり、T細胞補助シグナル分子を介したシグナルが伝えられないと、活性化されないばかりか、その抗原に対して応答しない「免疫寛容」状態になることが分かっている。それだけに、T細胞の運命決定にT細胞補助シグナル分子群が重要な役割を果たしていると考えられている。

 ただ、それらの免疫反応・制御の詳細なメカニズムについては、十分に解析されていないのが現状だ。一般に、CD28は未熟なT細胞での発現が高いといわれているが、T細胞レセプターとの共刺激によって、IL‐2やIFN‐γなどT細胞のエフェクター機能が活性化されたり、T細胞依存的な抗体産生が増強されるなど、反応性に大きな違いが見られている。そのため、何らかの異常があれば、サイトカイン・ストームなども起こり得ることが考えられている。

 TGN1412はスーパーアゴニスト抗体だけに、その危険性は開発以前から解決すべきものとして捉えられていた。スーパーアゴニスト抗体がどのような分化段階のT細胞に親和性が高く作用するのか、その作用時間や量との関係はどうなのかなど、多くの課題があった。そうした分子標的薬などが本来的に抱えている問題が、TGN1412事件として起きてしまった。

 英国で2006年3月13日に行われた第I相試験では、健康なボランティア被験者8人中、実薬投与を受けた6人全員が、重篤なサイトカイン・ストームを引き起こした。多臓器不全に陥り、一時は全員が集中治療室に入った。その後、全員退院したが、1人は壊死によって手指を切断された。事件後に、非臨床安全性試験の実施項目数、第I相試験の準備段階、有害事象発生後の対応などが調査されたが、英国医薬品庁(MHRA)は、第I相試験に重大なエラーがないことから、サイエンティストを集めた上で、データを検討する必要があるという内容の最終報告を発表している。

 松本氏は、「GLP、GCP、GMPにも問題がなかったとされている」ものの、毒性試験の結果と第I相試験のプロトコールを照らし合わせたところ、臨床試験での投与法など、設定に問題があったのではないか指摘した。

 毒性試験は、交差性試験、アカゲザルによる単回投与毒性試験、カニクイザルによる28日間反復投与毒性試験などが実施された。

 単回投与毒性試験では、アカゲザルの雄雌各1例を対象に約1時間にわたり、TGN1412を5050mg/kg静注したところ、初回投与後13019日目に腋窩リンパ節と鼠径リンパ節の腫大、CD4陽性T細胞の数値が4倍まで上昇したことが認められている。その理由については、薬効が延長したためと判断された。その後の反復投与毒性試験では、カニクイザル26例を対象に、最高投与量50mg/kgで1時間にわたり点滴静注したところ、変化がなかったことから無毒性量(NOAEL)を50mg/kgと設定。初回投与量をNOAELの1/500である0・1mg/kgとし、最高投与量を5mg/kgとした。

 ただ、反復投与毒性試験でのサルの血中のサイトカイン値をみると、TNF‐αがコントロール群で20pg/mL、50mg/kg投与群で22pg/mL、IFN‐γがコントロール群18pg/mL、50mg/kg投与群で33pg/mLと、大きな変化はみられなかったのに対し、IL‐5はコントロール群6pg/mL、50mg/kg投与群107pg/mL、IL‐6もコントロール群7pg/mL、50mg/kg投与群128pg/mLと、IL‐5とIL‐6が顕著に増大していた。

 通常、サイトカインの変動値は毒性試験での臨床検査データを、コントロール群の個体差と試験実施施設での背景データを基準として、異常値を判断する必要があるされている。松本氏は、トキシコロジストとして、「TNF‐αとIFN‐γの数値が変動していないのに、IL‐5とIL‐6がここまで増加することはおかしいと思う」と述べ、非臨床試験の段階で警告を出す必要があった分析した。

 さらに松本氏は、反復投与毒性試験ではTGN1412の0・1mg/kgを1時間かけて静注したのに対し、第I相試験では4分間で急速静注したことも大きな要因となっているとし、トキシコロジストと臨床開発担当者の情報交換を密接に行う必要があるとした。

 実際、キメラ型抗CD20抗体のリツキシマブの臨床開発時にも、急速静注によって類似した症例が確認されており、持続点滴に切り替えることで有害事象の発生を抑えられたという結果も報告されている。

 松本氏は、低分子化合物の経験から、肝臓で生成される活性代謝物の数値などで決定されるNOAELによる用量設定が行われたが、生物製剤では低分子化合物と違い、薬理作用の延長線上で有害事象が発現することから、「生物製剤にNOAELを適用することは難しい」と指摘。生物製剤の初回投与量を設定する場合には、受容体占有率などから最小限の効果を発揮すると予測される量を算出するMABEL(最小予測生物学的有効量)の活用を提案した。

 ただ、MABELを算出する場合、非臨床試験の結果による影響が大きく、特に受容体占有率の数値がアンタゴニスト、アゴニストによって差があるという。実際、06年に発表されたMHRA中間報告では、MABELによる用量が0・005mg/kgであったのに対し、07年に発表された最終報告ではTGN1412による受容体占有率を10%に抑える用量として0・001mg/kgとされており、中間報告で報告された投与量が最終報告の値に比べて5倍増大している。

 そのため、松本氏は、EMEAのガイドラインでMABELを基準として初回投与量を算出することが推奨されているが、今後、MABELを活用していくためには、算出方法の体系化が必要になるとした。

 また、松本氏は、FIM(first in man)試験を実施する前に、ヒトの細胞株を用いたin vitro試験を実施することで、FIM試験を実施する際に必要な情報を収集できる可能性があるとし、「非臨床試験で何らかの意志決定をしたい時は、ヒト細胞を活用した試験を実施すべきだろう」と述べた。

 そのほか、FIM試験を実施する場合には、「非臨床の専門家と臨床開発の専門家の連携が重要だ」とし、今後、TGN1412の教訓を生かし、非臨床試験から治験、市販後までの一貫した副作用に関する情報を共有できるリスクマネージメントシステムを構築する必要があるとした。

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