中堅企業を中心とした製薬企業の再編劇が活発化してきた。昨年10月にキリンホールディングスが協和発酵の子会社化を発表。さらに今年2月には、富士フイルムホールディングスが新薬メーカー富山化学の買収を発表するなど、ここ半年間だけでも、中堅企業を巻き込んだ大きな再編劇が演じられた。これら二つの再編はいずれも、異業種企業が主導役を演じたという共通点がある。
特に、富士フイルムは「10年後にメディカル関連で1兆円を目指す」と高らかに宣言するなど、今後の事業展開では、メディカル領域を大きな柱に据える方針を示している。今後も再編の舵取り役として、異業種企業がクローズアップされる可能性は否定できない。
21世紀に入って以降、国内製薬企業の再編劇が続いたのは周知の通りだ。いま振り返ってみると、最初に起きた国内大手同士の合併は、巨大化する欧米製薬企業に対抗することが狙いであった。山之内製薬と藤沢薬品が合併してアステラス製薬に、続いて三共と第一製薬が統合して第一三共が誕生した。いずれも事業規模の拡大、新薬開発経費の確保を主眼に、グローバルな事業展開を意識したものであったと位置づけられる。
しかし、その後に起きた再編の流れを見ていくと、傘下に医薬子会社を持つ大手化学企業が、中堅企業との統合へ動いていった。05年には住友製薬と大日本製薬が合併し、住友化学の傘下に入ったほか、07年には田辺製薬が三菱ウェルファーマと合併し、三菱ケミカルホールディングスの傘下に入った。化学大手の中には、以前から医薬を中心としたライフサイエンス事業に参入している企業もあり、医薬事業の強化は無論のこと、▽医薬事業は本業よりも利益率が高く、魅力的である▽本業で蓄積した技術力を応用できるケースが少なくない――など、化学大手が医薬事業の強化を進めるのは当然の成り行きと言えるだろう。
そういう中で生まれたキリンと協和発酵、富士フイルムと富山化学の再編。これら異業種企業が主役となったケースも、やはり得意技術を生かし、これを新薬開発へ応用していくプロセスと位置づけられるかもしれない。
協和発酵の強みは「抗体医薬」。早くから医薬事業に参入したキリンも、子会社のキリンファーマが抗体医薬に力を入れてきた。協和発酵には「ポテリジェント技術」、キリンには「KMマウス技術」という抗体技術の強みがある。今回の再編は両者の強みを生かし、シナジー効果の最大化によって、グローバルな競争力強化を図るというのが統合の大きな狙いである。
他方、富士フイルムと富山化学のケースも、画像診断技術、乳化分散技術などに強い技術力を持つ富士フイルムと、鳥インフルエンザへの効果も期待されるインフルエンザ治療薬「T‐705」をはじめ、新薬候補品目を抱える富山化学の思惑が一致したもので、こちらも技術融合を狙った買収劇と見ることができる。
中堅規模では対応しきれない潤沢な資金力も、中堅製薬企業にとっては魅力に映る。せっかくの優れた新薬候補品目も、スピード感を持って開発できなければ、宝の持ち腐れになってしまうからだ。
4月には薬価改正が行われ、中堅企業にとっては経営の厳しさが増す。そう考えると、医療分野への進出を目論む異業種と、中堅製薬企業を核とした再編劇がさらに続く可能性は十分にあり、今後の動きに目が離せない。