2009年度予算に向けた検討が始まる。その中で焦点の一つになるのは、06年度から5年間で社会保障関連予算を1・1兆円削減(年2200億円の計算)する政府のマイナスシーリングの取り扱いだ。
“医療崩壊”を加速しかねず撤廃すべきとする与野党、医療界の意見には頷ける。しかし、医療費を含む社会保障費が増えれば、負担は国民に跳ね返る。その負担を求めることと景気減速との関係、社会保障費の増加と危機的な財政状況の再建との関係をどう考えるか。
解散風が吹き始めたといわれる中で、選挙目当ての施策も出てこようが、事は中長期的な日本の社会保障制度の姿をどうするかという問題。撤廃か堅持かといった単純な議論ではなく、バランスのとれた議論が必要だ。
09年度政府予算の基本方針となる政府の「骨太の方針2008」の検討に着手した経済財政諮問会議では、民間議員がマイナスシーリングの根拠となっている歳出・歳入一体改革の堅持を提案。額賀財務相も同改革を盛り込んだ「骨太06」に沿った対応をするよう念押しし、布石を打った。
背景には、改革の負の部分に配慮する福田政権の路線に乗じ、社会保障や公共事業などのマイナスシーリングの撤廃を求める意見が強まり、財政規律のタガが緩みかねなくなっていることがある。
とはいえ、社会保障分野では、与野党、医療界から撤廃を強く求める声に加え、舛添厚労相も、必要な経費を削り込む恐れがあるとして「(削減は)限界」と何度も国会で答弁。福田首相も「社会保障の質を下げることになり、自ずと限界はある。きめ細かい点検は必要だが、なかなか難しい段階に来ている」との認識を表明した。
しかし撤廃か、財政再建に向け堅持かというほど、議論は単純ではない。国の借金が800兆円にも達し、危機的財政の再建に向けたスタートラインといえる、11年度をメドとしたプライマリバランス(PB)達成の必要性は大きい。だからといって“医療崩壊”の懸念払拭が必要ないということにはならない。国民の肌感覚として医療に対する不安感が強まっており、安心できる体制づくりも必要だからだ。
景気の下ブレが懸念され、歳出・歳入改革の前提の一つである名目成長率2・2%を達成できない恐れが指摘され、PB達成が難しくなっている状況が生じている。
その中で仮にマイナスシーリングを撤廃した場合、医療費を含む社会保障予算は増大することになるが、同時にその費用は国民が負担しなければならない。
いずれにせよ、消費税を含む増税論議は不可避なのだが、景気減速、物価高、その中で仮に総選挙となれば、増税論議がしづらい環境が生まれることが想像される。先延ばしのツケは、確実に国民に跳ね返る。そのため、財政・財源のあり方を含めた議論を行う政府の社会保障国民会議が、どういう判断を示すか注目される。
一方で、かねてから医療分野は、他のサービス部門より経済波及効果があるといわれ、医療をコストだけでなく日本の成長産業としても見るべきとの意見もある。牽引役として期待されながらも、停滞する日本の医薬品市場の活性化にも寄与する意見だが、これには民間保険の活用など混合診療の解禁問題も絡んでくる。
撤廃派も堅持派も、現下の日本経済とその成長戦略を踏まえ、軌道修正するなり歩み寄った議論が必要だ。