新型コロナウイルス感染症の拡大は、社会のあり方を変えるきっかけになりそうだ。感染拡大を防ぐため、人と人が対面で接したり、閉鎖空間で密集する機会をできるだけ減らすことが推奨され、多くの企業がテレワークの推進に踏み切った。その他にも様々な領域で、可能な場合にはオンラインで代替する動きが広がっている。この動きは薬業界も例外ではない。
製薬企業では特に、医療従事者に医薬品の情報提供を行うMRの仕事のあり方が問われそうだ。感染拡大を受け、MRの訪問を控えるよう要請する医療機関は多く、訪問自粛に踏み切る製薬企業も多い。以前からMRの数が多いとの指摘はあった。医師へのディテール数が売上高に比例するという従来型の営業戦略を背景に、MRのマンパワーにこだわる製薬企業は今でも少なくないようだが、これを契機に、改めてMRの役割や情報提供の必要性などが見直されるのではないか。
MRの仕事は、車での移動や医療機関での待機に多くの時間が割かれ、効率的とは言えない。今や人工知能が情報提供の一部を代替できる時代になりつつある。今後、様々な情報提供手段を駆使してMRによる対面は必要最小限に抑え、業務の効率化を進めながら適正なMR数を各社が模索する動きが加速していく可能性がある。
医療のあり方にも一石が投じられる。オンライン診療の推進だ。医師や薬局薬剤師の多くは保守的で、オンライン診療を積極的に推進する姿勢はあまり認められなかった。
しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて社会情勢は一変した。厚生労働省は実施要件を緩和し、今月13日から初診の患者に対してもオンライン診療を行うことができる時限措置の実施に踏み切った。
これまではオンライン診療を行う医療機関は少なく、薬局薬剤師もまだ先の話として捉える傾向が強かった。今回の措置を受け、オンライン診療を手がける医療機関が増えれば薬局側も対応する必要に迫られる。患者からのニーズも強まるだろう。医療関係者の多くは、オンライン診療は時間をかけて段階的に社会に浸透することを思い描いていたはずだが、その進行が速まりそうだ。
一方、薬系大学では、休校に伴ってオンライン講義の実施が進んでいる。休校解除後は従来の教育体制に戻ると見られるが、補習にオンデマンド授業を導入するなど、学習効果の向上に様々な情報技術を活用する取り組みが今後進むかもしれない。
感染症への対策を契機に、これまで馴染みがなかった人がオンライン化に一度取り組んでみることで、社会全体の経験値が上がる。今回経験したことは、きっと感染症収束後の社会に引き継がれ、様々な形で体制に組み込まれていくだろう。変化する社会に対応できるように、準備を進める必要がある。