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大山鳴動した「アビガン」の行方

2020年06月12日 (金)

 新型コロナウイルス感染症の治療薬として抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」が大きな脚光を浴びている。最近まで、5月中の承認に向け突き進んでいた感があったが、前のめりだった動きもようやく沈静化しつつある。

 アビガンをめぐる経緯を振り返ると、医薬品の薬事承認を目指す流れとしては異例の連続だった。首相が国家備蓄用のアビガンについて、新型コロナウイルス感染症を対象に治験を開始すると表明し、製造販売業者の富士フイルム富山化学が国内第III相試験をスタートさせたところまでは問題はなかった。有効な治療薬が特例承認された「レムデシビル」のみである以上、期待が持てる薬剤を試すのは自然の流れであった。

 ところが、当初、今月末の試験終了を待って有効性、安全性が確認された場合は承認申請を行う方針が示されていたものが、大型連休中には首相が観察研究のデータで有効性が示されることを念頭に、「5月中の承認を目指す」と承認時期に言及する事態に発展した。

 政府は、正式な治験ではなく、観察研究で有効なデータが得られれば、薬事承認を認める方向へと急速に突き進んでいった感がある。

 これを受け、厚生労働省は観察研究による有効性、安全性の確認を前提に、治験成績の資料提出を不要とする通知を発出。緊急事態とはいえ、治験データが不要という異例の流れに、何としてもアビガンの承認にこぎつけたいとの意図がにじんだ。

 なぜ、ここまで前のめりになったのか。未知の新型コロナウイルスに効果のある治療薬を一刻も早く使えるようにしたいとの気持ちは理解できる。国家備蓄用とはいえ、国産の医薬品ということも期待感を高めるのに影響したかもしれない。

 ただ、そもそもアビガンは「タミフル」との比較で非劣性が示せず、プラセボと比較した有効性の証明にも失敗して季節性インフルエンザの適応で承認を取得できなかった薬剤である。

 日本医師会の有識者会議からも「有事だからエビデンスが不十分でも良いということには断じてならない」として、「治験結果を待つべき」と警鐘が鳴らされたのも当然だったと言える。

 最終的に、アビガンの観察研究の中間解析を受け、専門家から「科学的評価は時期尚早」との考えが示されたことが決め手となり、5月中の承認は見送られた。

 今回、観察研究の中間解析データが公表される前から、ワイドショーなどで、有名人の服用体験談やアビガン投与を煽るような意見が毎日のように流され、まさに根拠なき過剰な期待という大きなムードがアビガン承認へと突き進んでいく危うさがあった。第二のイレッサになりかねないと危機感を抱いた関係者も多いのではないか。

 結果的に、アビガンは第III相試験のデータ待ちとなった。もし、期待できる結果が示されれば、その時こそ日本の審査当局の力が試されることになる。



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