日本の政局も衆院選をめぐって、水面下とアドバルーンの両方で与野党の攻防が激しさを増している。選挙も間近かと思われたが、米国の金融不安による株価暴落を受けて先延ばしの憂き目にあった。麻生氏が総理に就いて経済再建最優先を表明したが、米国のくしゃみ一つでかぜをこじらせた状況に陥っている。紛れもなく、経済が政治を含めた世界を動かしている。
医薬品産業では、この10月にも医薬品の流通改善に向けた9月末までの取り組み結果がまとめられる予定であり、日本における医薬品流通でのエポックになる可能性がある。正確な数字はまだ公表されていないが、業界全体から芳しくない雰囲気が漂ってくる。
そもそも「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」の緊急提言は、公的医療保険下での取引全体の適正化、薬価調査の信頼性を担保・確保するため、未妥結・仮納入、総価取引慣行の是正を図るためのものでもある。
長期未妥結を解消しようとすると、例年よりも早期の納入価交渉と妥結が必要になる。自由市場経済原理で動いているビジネスでは、こちらの要望を満たすためには、相手の要求をのまなければ商売は成立しない。早期妥結を優先すると、経済合理性に基づく適正価格提示を貫き通すことは難しい。
課題の一つでもある医薬品卸の売差マイナス改善には、メーカー側の仕切価設定がキーになるが、卸側から好意的で積極的な協力が得られたとは聞こえてこない。川上の仕切価と川下の納入価両方で利益が出にくい構造なのは、市場原理において中間流通業の定めであり、今回もある程度想定されていた事態ではある。
社員と家族(株主等のステークホルダー全てを含む)を抱える民間企業が、公的保険制度・薬価制度の維持に貢献しているにもかかわらず、自社の利益を減らす行動を余儀なくされる事態が生じている。公的制度と自由市場の狭間で生きていく限り、致し方のないことなのかもしれない。 今回、流通改善が進まなかったと判断された場合、日本にはなかった公定マージン制や参照価格制などを導入する案が急浮上することはほぼ確定的だ。換言すれば、現在の日本型医薬品流通体系の大変革を意味するものであり、既に対応策の検討に着手している卸もあると聞き及んでいる。
先月、アイルランドで国際医薬品卸連盟(IFPW)のダブリン総会が行われた。会合では、サプライチェーンの完全性が重要なテーマとして取り上げられ、各国の医薬品流通関係者が議論を繰り広げ、ニセ薬の流通や医薬品情報の標準化の遅れなどが指摘されていた。日本では、医療用ではニセ薬の市場流入はほぼ防止できており、情報の標準化に向けた取り組みについても、一気とは言えないものの着々と進められている。判官びいきではなく、日本が医療安全面におけるサプライチェーンの完全形に最も近いところにいると率直に感じられた。
世界に冠たる日本型の医薬品流通は、卸の努力(販管費削減等)だけでは維持できない。川上、川下でいろいろな厳しい状況にあることも事実だが、産業全体の責務として、患者に安全な医薬品を提供できる医薬品流通体系は維持しなければならない。
流通改善ができたか否かは大きな問題だが、その結果によって制度を変革するのであれば、患者に不利益を被らせることは絶対に避けなければならない。「変化」は必要だが「悪化」は必要ないものだ。