塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症経口治療薬「ゾコーバ錠」の緊急承認が胸突き八丁に差しかかっている。大きな注目を集めた6月22日の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会の審議では、有効性の評価をめぐって賛否両論の意見が出てまとまらず、さらに慎重に議論を進める必要があると判断。20日に開催される薬食審と薬事分科会の合同会議に結論が先送りされた。
オミクロン株の蔓延で自宅療養者の死亡や重症者が急増した「第5波」の厳しい教訓から、自宅で服用できる経口治療薬が求められ、昨年12月にMSDの経口抗ウイルス薬「ラゲブリオ」、今年2月にはファイザーの「パキロビッドパック」が特例承認され、コロナウイルスに対抗する新たな武器が揃った。
国家危機管理の観点から国産治療薬の確保が期待されていたのも事実で、唯一経口薬開発を手がけていた塩野義に政府も手厚い支援でバックアップし、今年2月に「条件付き早期承認制度」の適用を視野に承認申請に漕ぎ着けた。
しかし、ゾコーバの審議入りは遅れた。5月に「緊急承認制度」を新設した改正医薬品医療機器等法が成立したことから、塩野義は改めて5月末に緊急承認を申請する方針に転換。それでも6月の部会審議では有効性に疑義が示される事態となった。
大きな焦点となったのはゾコーバの国内第IIb相試験結果だ。主要評価項目の一つである抗ウイルス効果はプラセボに対して有意差を示した一方、もう一つの主要評価項目である症状改善効果を達成できなかった。これが緊急承認の適用要件である有効性の「推定」に当たるか賛否両論の議論を巻き起こした。
委員からは「治療の選択肢を持っておくことは重要」との意見も出たが、「臨床症状は改善されていない」と曖昧な状況で承認することに疑問の声も出た。
臨床試験の主要評価項目はその試験を計画した主目的であり、一つしか目的を達成できなかったということは、有効性に関する科学的な根拠が十分ではないと解釈できる。委員が指摘した「曖昧な状況」とは、まさにこのことを意味しているのだろう。
「緊急」という状況もどう考えるべきか。既に審議を1カ月先送りした時点で、あまり緊急性の高さは感じられなくなった。今月に入ってオミクロン変異株「BA5」が拡大し、感染者が急増している。これが審議にどう影響するか不明だが、あくまでも審議の中心は抗ウイルス効果と臨床症状の改善の客観的な判断になる。
今回の極めて異例の事態は、ゾコーバが臨床試験で有効性をクリアに示せなかったことに尽きる。国産経口治療薬には国民からの期待も高く、最終的には政治判断となる可能性もあるが、審議会の委員には公職の自覚を持って、誰もが納得できる結論を出してほしい。