日本製薬工業協会会長 岡田安史

新型コロナウイルス感染症との戦いが未だ続いている一方で、オミクロン株は従来株と比べて重症化率が低い傾向にあることなどから、感染症法上の類型見直しの議論も始まりました。昨年は日本発の新型コロナウイルス感染症経口治療薬が新たに創設された「緊急承認制度」のもとで承認され、日本発ワクチンも承認申請が行われました。
感染症・ウイルス対策は国家安全保障上の最重要課題であり、有事に迅速かつ的確に対応するためには平時からの備えが不可欠であり、これらの取り組みを着実に進めていかなくてはならないと考えています。
ウクライナ情勢によるエネルギー価格や物価の高騰、欧米との金利差などに伴う円安の進行は日本経済に大きな打撃を与えていますが、製薬企業にとっても例外ではなく、原材料、原薬、輸送コストの上昇、研究開発費の増加など様々な影響が生じています。そうした中で行われた本年の中間年改定に関する議論では、製薬業界として、医薬品はコスト増による価格転嫁や供給量の調整ができない特性から、薬価を引き下げる状況にはないと訴えてきました。
結果として、前回2021年度改定と同様、平均乖離率の0.625倍を超える品目が対象となる一方、イノベーションに配慮する観点から新薬創出等加算の加算額を臨時・特例的に増額すると共に、安定供給問題に対応するため不採算品再算定が全対象品目に適用されることとなりました。
現在、日本で使用できない未承認薬が増えています。ドラッグラグ・ドラッグロスを阻止し、国民の革新的新薬へのアクセスを確保するためにはイノベーションの適切な評価が不可欠です。
昨年、厚生労働省に「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が設置され、薬価制度の抜本的な見直しの議論が開始されました。製薬業界は、日本市場の魅力度低下や国内未承認薬増加の現状を踏まえ、現行の新薬創出等加算に代わる新たな薬価維持制度と、医薬品の持つ多様な価値を客観的かつ透明性をもって評価するプロセスの導入を提案しました。次期薬価制度改革で実現するため、引き続き関係者と議論を尽くしていきます。
昨年は医療分野におけるDXの議論が本格的に開始されました。これらを実効性ある取り組みとするため、データ基盤構築と出口規制を志向する法制度整備を両輪とする総合政策を進めていただきたいと考えています。