日本製薬団体連合会会長 眞鍋淳
昨年は新型コロナウイルス感染症の第6波の中で新年を迎え、ウクライナ侵攻など、世界の秩序を覆す重大な出来事がありました。特にウクライナ侵攻による食料・エネルギー供給網の混乱が世界各国の社会経済に深刻な影響を及ぼし続けています。
日本では、輸入に依存しているエネルギーや原材料価格の高騰が円安と相まって物価を押し上げ、コロナ禍からの経済の立ち直りが進まない状況にあります。
昨年12月、総合経済対策として約29兆円の補正予算が成立しました。その一環で「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」に3000億円が計上されました。創薬エコシステムを構築していく上でベンチャーの育成が喫緊の課題です。この事業が契機となって、今後日本の創薬力が大きく強化されていくことを強く期待しています。
一方、2023年の中間年改定は、平均乖離率7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目を対象として実施することが決定しました。市場経済ではエネルギーや原材料価格等の増加分を適切に価格に転嫁することは当然のことですが、薬価基準制度のもとでは、これらのコスト増を医薬品の価格に転嫁することは事実上不可能です。また、より安価な原材料への変更や製造工程の効率化もGMPなどの規制によって迅速な対応が困難です。
私たちは様々な場面でこのような現状を示し、中間年改定をする状況にはないと訴えてきました。慣例のように社会保障費の圧縮分の大半を安易に薬価から捻出することは限界に来ています。大変残念な決定と言わざるを得ません。
公定価格としての薬価基準と、その下での市場経済という二重構造により必然的に生じる薬価差をどう考えるか、厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」で様々な議論が交わされていますが、現行薬価制度下では特許品も含め循環的に薬価が下がり続け、医薬品市場としての日本の魅力低下によるドラッグラグ・ロス、低薬価品の供給問題など、日本の医療そのものの継続性が失われるリスクが顕在化しています。
今年、製薬業界は「特許期間中の新薬にかかる薬価制度」「新たな薬価改定方式への見直し」を提案します。この提言の実現により、医薬品を通じた日本の医療のさらなる発展、国民の健康の向上に貢献していきたいと強く念じるところです。