【京大・徳島大・川崎医大など】ムコ多糖症ニホンザルの臨床徴候改善‐組換えカイコと糖鎖改変技術で新型糖鎖

2025年05月09日 (金)

 京都大学、徳島大学、川崎医科大学を中心とする共同研究グループは、遺伝子組み換えカイコで産生したヒトライソゾーム酵素のN型糖鎖をエンドグリコシダーゼにより改変し、ムコ多糖症I型(MPSI)ニホンザルの臨床徴候を改善させることに成功した。この研究成果は、ライソゾーム病に対する高機能型の治療用酵素の開発につながることが期待される。4月18日に国際雑誌「Communications Medicine」にオンライン掲載された。

 ライソゾーム病はライソゾーム酵素の遺伝的欠損を原因とする疾患群。一部のライソゾーム病に対しては、哺乳類細胞株で産生した組み換えヒト酵素を静脈内投与する酵素補充療法が臨床応用されている。しかし、組み換えライソゾーム酵素を大量に生産する必要があり、より低コストかつ安全な生産系が求められている。

 同研究グループは、遺伝子組み換えカイコ発現系を用い、カイコ繭から組み換えヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を大量に抽出・精製することに成功した。精製IDUAにはライソゾーム酵素の細胞内取り込みに必要なマンノース6-リン酸(M6P)含有N型糖鎖は含まれていなかったことから、エンドグリコシダーゼを用いてN型糖鎖を改変したM6P型IDUA(M6P-IDUA)を調整した。

 また、近年ムコ多糖症VII型の治療用酵素であるベストロニダーゼ・アルファでは、酵素に付加されたシアル酸含有N型糖鎖が細胞内取り込みや薬物動態を改善することが示唆されていることから、シアル酸IDUA(SG-IDUA)も調整した。

 一方、京大ヒト行動進化研究センターで集団継代飼育されているニホンザル群の中から、軽症/中間型ムコMPSIの臨床症候を示す個体を発見し、IDUA遺伝子のミステンス変異(一塩基変異)を同定した。さらに、MPSIニホンザルにM6P-IDUAあるいはSG-IDUAを静脈内投与することで、尿中グリコサミノグリカン(GAG)を減少させ、臨床徴候を改善させることに成功した。

 これらのことから、遺伝子組み換えカイコとエンドグリコシダーゼの組み合わせは、機能的なN型糖鎖を有するデザイナー糖蛋白質(ネオグライコ酵素)を生産するための有望なアプローチと考えられた。

 同研究グループは、エンドグリコシダーゼ処理はコストパフォーマンスの面で改善が必要としている。今後、組み換えカイコに哺乳類型糖転移酵素遺伝子群を導入することでN型糖鎖構造をヒト型化し、低コストでヒト糖蛋白質製造プラットフォーム構築を目指していく。また、MPSIニホンザルはヒトと共通した原因・症状・治療法の条件を満たす疾患モデルと考えられることから、遺伝子治療法などの開発研究への応用にも取り組んでいく。


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