順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の研究グループはこのほど、心不全患者の臨床的フレイル尺度(CFS)と退院後の予後との関連を明らかにした。CFSは、心不全患者の退院後予後と有意に関連すると共に、客観的な身体機能・認知機能の指標を的確に反映していた。また、CFSを組み込んだモデルは、客観的検査(SPPB・Mini-Cog)を用いたモデルより高い予後識別能を示していた。この成果は、心不全患者の退院時評価におけるCFSの有用性を示すもので、早期の介入や治療戦略の改善につながることが期待される。
今回の研究は、全国87施設が参加する前向き多施設レジストリJROADHF-NEXT研究の結果を用いた解析。2019年4月1日~21年4月30日に入院した心不全患者を登録し、退院前の安定期にCFSを実施した。登録4016例のうちCFS欠測を除く3905例(平均73歳、男性61.5%)を対象に、CFSを1-2/3/4/5/6/7-9の6群に層別し、あわせて身体機能(歩行速度、SPPB、椅子立ち上がり試験、握力、6分間歩行)と認知機能(Mini-Cog)を客観的に評価し、主要評価項目は退院後2年の全死亡とした(追跡率84.9%)
その結果、CFSが高いほど身体機能・認知機能は段階的に低下した(全指標で傾向検定P<0.001)。2年間で725例(18.6%)が死亡し、CFSの上昇に伴い死亡率は一貫して増加した(ロングランクP<0.001)。調整後Cox解析では、CFS4:HR2.29(1.33-3.92)/CFS5:2.97(1.71-5.17)/CFS6:3.58(2.04-6.26)/CFS7-9:6.59(3.73-11.63)(基準=CFS1-2)と段階的なリスク増加を示し、CFSを連続変数で見ても1点上昇当たりHR1.42(1.33-1.52)と独立した関連が認められた。心血管死・非心血管死のいずれも同様の傾向だった。
予後予測能の比較では、ベースラインモデル(MAGGICリスクスコア+logBNP)のAUC(受信者動作特性曲線下面積)0.726にCFSを追加するとAUC0.752(Δ0.026、P=0.014)へ改善し、NRI(ネット再分類改善度)0.277(0.101-0.454、P=0.002)を示した。さらに、SPPB+Mini-logを加えたモデルと比べても、CFSを加えたモデルの芳香再分類改善(NRI0.281、P=0.002)を示し、ベッドサイドでの簡易評価が予後層別化に実用的であることが裏付けられた。
今回の結果は、退院前のベッドサイドでCFSを標準的に実施することが、現実的で効果的な第一歩であることを示すもの。短時間で評価できるため、高リスク患者を早期に把握し、退院計画や多職種連携(心臓リハビリ、老年科、在宅・地域支援)へ速やかに橋渡しできる。
また、電子カルテにCFSを組み込み、スコアに応じた自動アラートを設定することで、介入の抜け漏れを防ぎ、転倒予防・栄養・口腔・服薬支援などの介入が迅速に開始できるようなる。こうした運用により、CFSは予後に好影響を与える実践的ツールとして機能することが期待される。
同研究グループは今後、外来や他の循環器疾患への適用拡大、国際的妥当性の検証、および施設規模に応じた閾値の最適化を進め。CFSを標準ケアの中核に定着させるための検討に取り組んでいく。
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