薬局篇
“やりがい”育む体制築く‐定着へ現場での教育重視

石黒氏
薬局業界における薬剤師採用は、依然として充足しているという状況には至っていない。また、薬剤師の転職市場をめぐっては、転職が決まっても職場環境が合わずに早期に退職してしまう等の問題点も指摘される。そうした中、アインホールディングス(HD)では、採用した薬剤師に対して職場環境を整えることに加え、人事や教育・研修といった制度の仕組みも充実させ対応することで、薬剤師がやりがいを持って働き続けられる状況を構築している。
薬局業界の薬剤師採用に関して、アインHD人事部採用課課長を務める石黒貴子氏は、「薬剤師が幅広く活躍できるステージが現在はたくさんあるが、それほど多くの薬剤師が他業態等に移っているという感覚はない。薬局業界に就職しようという薬剤師数は一定割合で推移している」と分析する。その上で、「以前に比べれば、簡単に転職できるという状況ではないが、業界的に薬剤師不足であることは間違いないので、転職しやすい環境ではあると思う」とする。
実際にアインHDに転職を希望する薬剤師については、「前職が長く続けるには厳しい環境にあったと転職を考える薬剤師が多い」という。また、「長く仕事を続けられるという面で当社を選んでいただいているケースが多く、チャレンジという観点でも今後も成長していきたいという思いを持った薬剤師が入社を希望してくださる」と語る。
今後の薬剤師採用の方向性としては、「在宅医療など地域に関わっていくことが薬局に求められている。その役割を担っていく人材をきちんと備えた組織となっていくためにも、薬剤師の質という面もより一層重要になる。そうした視点では、どの企業でも薬剤師の採用を進めていくのではないか」と指摘。一方で、「とにかく薬剤師を採用したいという形と、採用する薬剤師の質を問うような形とに分かれてくると思う」との見通しを示す。
こうした薬剤師採用の現状や今後の方向性を踏まえ、アインHDが求めている薬剤師に関して石黒氏は、「“安心・安全”という薬局において、当たり前のことをまずきちんとできるという部分がベースになる」と説明。「それに加え、今後は多職種連携という面から他職種との関わりも必要になってくるので、コミュニケーション能力を持ち合わせた人。また、それぞれの地域の患者さまのニーズを汲み取る力を持ち、そこから判断して自分なりの対応ができる人も必要」とする。
さらに、「薬のプロフェッショナルという面が薬剤師の1番の強みで、そこは疎かにできない」と強調。「薬理学や有機化学などはもちろんのこと、高度な医療にも対応できる力が求められる。薬剤師そのものが専門性だと言えるが、さらにもっと奥深い部分での専門性を身に付けていくことが必要だ」と話す。
薬剤師の定着という面では、生涯教育・研修なども含め、やりがいを持って仕事を続けられるという点も大きい。アインHDの教育や研修をみると、集合型研修も当然あるが、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)という形で、特に現場での教育を重視して行っている。石黒氏は、「先輩薬剤師がOJTトレーナーとして新人薬剤師に1人ずつ付くことになる。トレーナー側も教えるということで“共に育っていく”という取り組み」とし、「転職されてきた薬剤師も現場での教育が中心になる」とする。
専門性の教育という面からは、「様々な学会が認定している認定薬剤師の資格を取得して生かしていくといった教育や、外来がん治療や認知症などが大きなテーマになってきているので、そうしたセミナーや勉強会への参加を促す案内なども会社側から社員に積極的に行っている」と説明。
「薬剤師は基本的に真面目で、自身のスキルアップを考えている人が多い」とし、「特に当社へ入社される薬剤師はスキルアップといった面を求めている人も多く、質の高い薬剤師の育成という会社側の方向性と、薬剤師のモチベーションの高さとがマッチしており、教育・研修を進めやすい環境にあると思う」と語る。