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二つの医療崩壊危機回避へ備えを

2020年11月20日 (金)

 日本の医療提供体制と医療保険制度は、世界的に見てもかなり高度なレベルにあると自他共に評価されている。国民皆保険制度が施行されて以来60年、何とか破綻せずに機能している。疾病に罹患しても、大部分の国民は一定の自己負担で標準的な医療を享受できる。しかも、医療機関に対してはほぼフリーアクセスである。「世界に誇れる」「世界に冠たる」との修飾が付くのも納得できる。

 大統領選で悶着が起きている超大国と言われる米国では、メディケア、メディケイドを除き、一般的な国民は民間医療保険に加入していない場合、脳外科手術や心臓外科手術などの高度医療を受けたら、自宅を売却しなければ支払えないほどの医療費請求が来ると聞いたことがある。支払えなければホームレスになるしかないが、命には代えられないだろう。正式に民主党政権が誕生すれば、日本の国民皆保険とは違うものの、国民をカバーするオバマケアが進められるかもしれない。

 日本では、3割以下の窓口自己負担で医療を受けられる。さらに高度な手術や癌の化学療法、放射線療法などを受けて医療費が高額になった時には、もちろん民間保険もあるが、公的には高額療養費制度がある。

 8月から高額介護合算療養費制度と共に上限額が変更になったが、過去1年間以内に3回以上上限額に達した場合には4回目から多数回に該当して、さらに上限額は下がる。一部の高福祉高負担国家を除けば、日本の公的医療制度は合格点にあると感じる。

 医療提供体制では、「第3波」と見られる新型コロナウイルス感染者の急増を受け、国内各地で重症者を受け入れている現場で医療崩壊が現実になると懸念されている。

 死亡者を増やさないためには、重症者を受け入れる集中治療室等の専用病床、対応できる医療従事者、回復に必要な機器と的確に扱える専門家の確保は必要な条件だ。全国で対応キャパシティに迫る実態が報告されており、医療崩壊を招かないための手立てを打つことに一刻の猶予もならない現状である。

 後期高齢者の窓口負担を原則2割とする動きに対して、医療保険における診療側の日本医師会と支払側の健康保険組合連合会の駆け引きが続いている。コロナ禍での不安要因による受診控えとは異なるが、自己負担増により必要な医療の受診控えが増える、財政が厳しいというどちらの言い分も理解できる。財務省も巻き込み、どこかでバランスが取れる落としどころを見つけなくてはならない。

 すぐに命に直結する医療提供体制の崩壊を避けなければならないことは国民誰もが認めるところである。一方の医療保険制度が立ち行かなくなっては、将来、子供や孫たちにレベルの高い医療を提供できなくなってしまう。厳しい環境にあるが、二つの医療を適切に維持継続できるような処方箋が今求められている。



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