米国で迅速承認を取得し、日米欧でフル承認を申請中のエーザイのアルツハイマー病(AD)治療薬「レカネマブ」だが、米国でイノベーションの評価が揺らいでいる。米研究機関「ICER」は今月、レカネマブの費用対効果を分析し、エーザイが設定した年間販売価格2万6500ドル(350万円)は高すぎるとし、8900~2万1500ドル(117万~284万円)が妥当と結論付けた。
臨床試験では、18カ月投与時点でプラセボ群に比べ症状の進行を27%抑制する効果が確認されているものの、レカネマブが投与された患者の約2割でアミロイド関連画像異常が確認されており、「効果に不確実性が残る」と判断した。
米国メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)も、保険償還範囲について臨床試験を受けた患者のみに使用を限定するとした。民間保険に入れない患者はレカネマブにアクセスできない格好だ。既に承認を取得しているアデュカヌマブと同様、厳しい使用制限が付けられたことになる。
ADを治す可能性がある薬に対して非常に厳しい評価が下されたと言えるのではないか。AD治療薬は、ドネペジル、メマンチン、ガランタミン、リバスチグミンの4種類に限られ、認知症の進行を抑えることはできても、認知症を治すことはできなかった。
レカネマブは、ADを惹起する因子の一つで神経毒性を有するアミロイドβプロトフィブリルに選択的に結合して無毒化し、脳内から除去することによってADの進行を抑える疾患修飾作用を発揮すると考えられている。
これまで多くの製薬企業がアンメットメディカルニーズの最たるものであるADの疾患修飾薬の研究開発に挑みながら、第III相試験で有効性を示すことができず、開発中止に追い込まれてきた。
レカネマブの27%の症状進行抑制効果を、医薬品の価値としてどこまで評価するか判断が分かれるのは理解できるが、治療法を待ちわびてきた患者や家族にとっては、大きな希望であることは間違いないだろう。
日本でレカネマブが承認された場合には、年間販売額1500億円以上の高額医薬品となる可能性を踏まえ、薬価のあり方を議論する必要がある。新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」は、年間3000億円を超えた場合は薬価を3分の1に引き下げる案が了承された。
レカネマブは、日本の製薬企業から生まれた新薬である。創薬のイノベーションには段階があり、新機軸を生み出す1番手企業がいないと始まらないのも事実である。
レカネマブを出発点に、有効性や安全性を改善した医薬品が登場し、そこで勝ち残った製品がAD治療薬として確立されていく。その先駆者であるエーザイには、1番手企業としての評価も正当に加えられるべきではないか。