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迫る医療危機を断つ2024年に

2023年10月13日 (金)

 物流や建設の停滞が懸念される「2024年問題」が、医療の世界でも起きかねない。原薬調達、製造、流通、医療施設での処方・調剤までのルートが途切れ、医療が停滞する兆しが見えるからだ。

 日本医師会が6日に発表した調査レポートは、後発品の約3割が出荷調整の中で、薬という治療手段が奪われる危機感の強さを浮き彫りにした。院内処方施設の9割が入手困難な医薬品があるとし、約半数が発注品の未納を経験。院外処方施設の7割強が薬局から在庫不足の連絡を受けている。

 医薬品が届くまでの過程も危うい。例えば、日医調査で入手・処方困難品の上位にある鎮咳剤「アスベリン」は、製造販売元のニプロESファーマにより、昨年12月から原薬の生産・供給体制が整わないとして限定出荷されている。今月3日には「原料、原薬の製造前倒しを製造所に依頼し続けているが、状況の好転には至っていない」との文書が医療従事者向けに出された。「供給量の段階的改善は2025年度下期」の見込みだ。背景にはパンデミックによる需要減少で、原薬の生産・供給体制が縮小したことがある。体制はすぐに戻せない。

 国際的には原薬調達は、発注量が少なく、規格も厳しい日本企業は劣勢と言われる。

 製造販売では、後発品企業が苦境に喘ぐ。薬価は毎年改定で下落が加速している。IQVIAによると、国内市場5年平均成長率は、毎年改定前は2.0%に対し毎年改定下では0.5%。約10%成長だった後発品市場は1桁台、22年にはマイナスになった。赤字となる原価率80%超品目は3割超に上る。経済はインフレ局面に転換したが、原価が高騰しても薬価制度上、価格転嫁は困難だ。

 工場から医薬品を倉庫に運び、保管する医薬品物流も「物流の2024年問題」に直面する。品質管理が厳格な医薬品の輸送には特殊車両が必要であるなど設備投資が高い上、燃料費、人件費等のコストも重くなっている。複数の地域企業で物流網を形成して展開する場合、採算上の理由で物流網から脱落する企業が出ないかも心配される。

 医薬品卸の経営も依然厳しい。営業利益率は1%未満。薬価20円未満の品目は約5割(包装単位品目ベース)にも上り、この低薬価品の取り扱いは配送コストを考えれば赤字と指摘される。現場を担うMS数は減少傾向で、要因に供給不足問題対応による疲弊がある。

 かように臨床を含めて危機が迫る。厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」は、このような危機に対し医薬品に焦点を当て改善策の方向性を示した。報告書を受け医療保険、流通、薬事の各領域の検討が進むが、迫る危機を断つことにつながるのかはまだ見えない。いずれ議論を総合し、「医療の2024年問題」を克服できるかを検証する機会が必要だ。



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