冬場にかけて流行が始まることが多いインフルエンザだが、今年は8月下旬から流行が始まっている。未だ収束していない新型コロナウイルス感染症との同時流行も懸念されている。こうした中で、インフルエンザやコロナなどの症状緩和に必要な鎮咳薬、去痰薬などが医療機関や薬局現場で不足していることが大きくクローズアップされている。
10月に武見敬三厚生労働相がこれら不足する製品を製造する主要製薬企業8社に対して増産を要請した。また、7日には、さらに24社に対して増産を要請した。供給不足の製品のうち、不採算品については、来年度の薬価改定で対応を検討するなど、国としてあらゆる支援を行う考えも示した。
既に鎮咳薬「メジコン」を製造販売するシオノギファーマは、工場の稼働時間を24時間体制のフル稼働にして短期的には他製品を減産し、リソースをメジコンに振り替える方針を発表している。
医薬品供給不足は、ここ数年相次いだ後発品メーカーの製造現場におけるGMP違反などの不祥事に端を発する。2021年からの3年間で製薬企業14社が業務停止などの行政処分を受けている。特に後発品は、国の使用促進策と相まって、今や医療用医薬品の数量シェア80%を占め、医療現場に欠かせないレベルにまで浸透している。
そのため、業務停止で生産が一時的に停止した企業の供給分を他社がカバーしきれず、出荷調整を行う企業が後を絶たない。医療現場では慢性的な医薬品不足が相当深刻な状況となっている。
10月23日には後発品メーカー最大手の沢井製薬が、同社九州工場で製造する胃炎薬について、安定性試験で不正が判明したことを公表した。最大手企業の不祥事は業界に大きな衝撃を与えた。
特に沢井製薬の親会社であるサワイグループホールディングスは、不正な医薬品製造により死者まで出た旧小林化工の工場と従業員を譲受しており、当時の記者会見で澤井光郎会長は「安全で高品質な製品を届けることが喫緊の課題」と述べていた。昨年4月から新会社として再生に取り組んでいた矢先だけに、信頼を大きく損なう格好にもなっている。
一方、同社に対する行政処分の動向にも注目が集まる。業務停止などの処分が下されると、さらに医薬品不足が深刻化することが予想されるためだ。国が医薬品の供給不足の現状下、メーカー各社への増産を要請している段階にあるだけに、判断が難しいところだろう。
後発品メーカー関係者からは「現行の薬価制度が変わらない限り、後発品メーカーは疲弊していく」との声をよく聞く。医療費抑制策の一環として推進されてきた後発品の使用促進だが、その結果が現状の供給不足に至るのでは本末転倒だ。小手先ではない抜本的な制度改正を求めたい。