田辺三菱製薬は、三菱ケミカルグループから、投資会社の米ベインキャピタル傘下に今秋までに約5100億円で売却される予定である。三菱ケミカルグループは、期待したほどの化学と医薬の相乗効果が得られず、本業の化学事業の再構築が急務で、新薬研究開発への投資を行う余裕がないとして、売却を決断した。
買収するベインは、バイオテック領域で世界最大規模の投資と田辺三菱の創薬力、育薬力、販売力を生かし、成長を支援するという。果たして田辺三菱はどんな事業体になるのか。
田辺三菱は1678年に創業し、350年近い歴史を持つ。日本の製薬産業の勃興期から和漢薬と西洋薬を扱い、自ら生産、供給を始めた会社の一つ。過去の新薬を振り返っても、日本の薬物治療に大きな役割を果たしている。
投資ファンドと聞くと手荒な事業改革を想像するが、田辺三菱の伝統と事業の力を削ぐことなく、日本を含む世界に新薬を創出、提供できる企業に向けた支援を望む。
そう考えるのは、田辺三菱は歴史に残る多くの薬を出しているからだ。中でも関節リウマチ治療薬として登場した「レミケード」は、炎症の伝達経路を妨げる生物学的製剤として、新たな薬物治療の道を開いた。米セントコア(現ジョンソン&ジョンソングループ)が創製したものだが、日本の開発は田辺三菱が担った。適応症も増やした。
糖尿病治療薬では、田辺三菱の「テネリア」は日本初のDPP-4阻害薬。続いてSGLT2阻害薬「カナグル」を上市。OD錠も開発した。最近では日本イーライリリーのGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの販売を担うことになった。
国際戦略品のALS進行抑制薬「ラジカット」(海外名「ラジカヴァ」)は田辺三菱が創製した。
ベインが田辺三菱の創薬力、育薬力、販売力に高い評価を与えたというのは決して過大ではない。今後の展開については、▽ベインの投資先のバイオテックの日本進出、製品価値最大化▽海外からの導入▽田辺三菱自身の海外展開――の提案を受けたと、三菱ケミカルグループは説明する。これは後期開発品の拡充、国内外の事業強化という田辺三菱の課題に応えてはいる。
しかし、まだ具体的な事業戦略は示されていない。ベインは、大型投資を通じ「(田辺三菱は)独立した企業として、メディカルイノベーションの伝統をさらに発展させながら、事業開発、ライセンス活動、創薬活動の生産性向上、商業化、戦略的買収を通じ新たな成長機会を開拓していく」と述べるのみ。日本での予見性が高くないワクチン事業の扱いには触れていない。
ベインはいかなる投資回収策を見据え、田辺三菱をいかなる領域でどのような事業を行う企業にしようと考えているのか。ベインと田辺三菱から具体的な戦略を聞きたい。