薬局薬剤師もNSTの担い手に

二村氏
日本栄養治療学会(JSPEN)は、静脈・経腸栄養を用いた臨床栄養学に関する優れた知識と技能を持った人材を認定する「NST専門療法士認定資格制度」について薬局薬剤師の活用と資格取得を呼びかけている。薬局薬剤師が資格を取得することで、地域包括ケアにおいて重要性を増す栄養管理の担い手として他職種と連携した実践的な支援が可能となる。資格制度では、栄養治療に関する体系的な知識を修得できるだけでなく、資格取得者には他職種との研修機会や外来・在宅患者に対する高度な支援を学べる場も用意されている。JSPENは薬局薬剤師が地域一体型のNST(健康サポートチーム)の一員として活躍できるよう制度的・教育的に強くサポートしていく。
NST専門療法士は薬剤師、管理栄養士、看護師、臨床検査技師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、歯科衛生士、診療放射線技師といった医療専門職を対象とした認定資格である。申請にはJSPEN学術集会への参加や受験必須セミナーの受講、教育施設における40時間の実地修練を経た上で認定試験への合格が必要だ。
現在、薬剤師のNST専門療法士資格取得者は3902人に上るが、その多くは病院薬剤師であり、薬局薬剤師の取得者はまだ限られている。JSPENでは今後、外来や在宅の現場で活躍する薬局薬剤師への認定制度の浸透を図りたい考えだ。
JSPEN薬剤師部会長で鈴鹿医療科学大学薬学部教授の二村昭彦氏は、「これまでは病院内でのNST活動が中心だったが、今後は地域全体で患者の栄養管理に関わるNSTに薬局薬剤師が積極的に参画すべきだ」と述べる。そうした考えのもと、薬剤師部会では昨年2月に「栄養管理における薬剤師の活動指針」を改訂。静脈・経腸栄養の処方支援や適正使用の推進、病院、薬局における栄養管理の実践例をまとめ、薬局薬剤師にとっての具体的な役割を明示した。
二村氏は「これまでは薬局薬剤師が栄養管理で何をすればよいのか分からなかった部分もあったが、今回の指針改訂によりそうした疑問を少しでも解消したい」と語る。
JSPENは、NST専門療法士の取得者に向けた研修体制も強化している。上級資格である「栄養治療専門療法士認定資格制度」では、癌、肺疾患、肝疾患、腎疾患、摂食嚥下、在宅医療など九つの専門領域ごとにより高度な専門性を育成。「アドバンスセミナー」の開催を通じて、キャリアップにつながる学びの場を提供している。
研究の場でも薬局薬剤師の参画が期待されている。薬剤師部会では「静脈カテーテル感染症等の輸液ルート使用にかかわる実態調査」を多施設共同で実施し、その結果は英文誌に掲載された。二村氏は「栄養療法に用いられる医薬品との相互作用や栄養障害が薬物治療に及ぼす影響など、薬学的視点での研究はまだエビデンスが不十分。薬局薬剤師こそ現場から課題を見出し、研究につなげられる存在だ」と強調する。
薬局薬剤師がNST専門療法士として活躍することは地域における予防・治療・在宅支援の質を大きく高める。JSPENは認定制度をはじめとする教育、研究の機会を通じて、薬剤師のスキルと役割の拡大を力強く支援していく。地域の医療課題に栄養の力で応える。その第一歩として薬局薬剤師にこそNST専門療法士という選択が求められている。
日本栄養治療学会
https://www.jspen.or.jp/certification/nst