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医療デバイスでも深刻な“ラグ”

2007年04月11日 (水)

 米国から始まった低侵襲医療が進展し、日本でもようやく医療現場への適用が進められつつある――だが、実はこれは正確ではないという。内視鏡外科学会会長・教育委員長を務める黒川良望氏の解説によれば、例えば内視鏡下手術は1960070年代、関節鏡、胸腔鏡気胸治療、腹腔鏡検査などが世界に先駆けて“日本”で試みられている。

 一方、インターベンショナル・ラジオロジー(IVR)の世界では、血管内治療への挑戦は30年も前から行われてきた――こう説明するのは、総合大雄会病院IVRセンター長の打田日出夫氏。同氏は、このほど保険償還が実現したクック社「ゼニスAAAエンドバスキュラーグラフト」という腹部大動脈瘤の血管内治療デバイスの臨床試験に携わった人だ。

 打田氏らは長年にわたって、腸骨動脈狭窄の患者を“手製”のステントで治療してきた。この分野のステント(Palmas)が、日本で正式認可されたのは、今から10年前の96年だという。

 ここに現れているのは、いま盛んに言われているトランスレーショナルリサーチ、製品化への橋渡しに関する環境整備が、日本で全く行われてこなかったということである。

 このほど行われたクック・ゼニスの記者発表会では、慈恵医大の大木隆生氏が血管内治療の日米比較を論じ、ドラッグラグならぬ“デバイスラグ”の現状を指摘した。「アフガン、北朝鮮、日本に共通なことは」と謎かけをし、その答えを「ステントグラフトが承認されていないこと」と説明した。

 日本は“中古市場”であるとの厳しい指摘も行った。クック・ゼニスの治験開始は2000年7月まで遡り、米国ではこの段階で承認されていた。クック・ゼニスのように最新・最先端のデバイスであれば、このタイムラグも許されようが、中には日本で漸く承認された時には、米国は既に次世代のデバイスへ移行しており、販売中止になっている事例もあると訴えた。

 製品開発の環境が整わない理由としては、治験相談などの人員が不足していることがまず挙げられようが、大木氏は内外価格差の問題も大きく影響していると述べる。医療費政策で内外価格差が縮小の一途を辿り、開発経費等が確保されないため、企業の開発意欲が削がれているということだ。打田氏は「臨床試験は研究者がほとんど手弁当状態で行った」と述べている。

 もう一つ大きな問題は、この治療法の保険償還対象が“外科手術による治療が第一選択とならない患者”に限定されていること。大木氏は、米国や日本の治験では、普通の腹部動脈瘤の患者を対象に行ったとしており、保険償還は治験対象患者以外の患者に適用されるという大きな矛盾が生じていると語った。

 医療費を抑え込もうという意図は明白であり、実現した保険償還の姿は科学性に欠け、恩恵が受けられるはずの患者が除外されている。これはもはや“医療経済学”の視点を欠いているといったレベルの話ではない。保険適用の方法と価格付けの方法を、医薬品のようにしっかり公開すべきである。



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