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【2014年回顧と展望】研究開発を通じて本来の社会的役割に邁進‐製薬協専務理事

2014年12月26日 (金)

日本製薬工業協会専務理事 川原章

川原章氏

 総選挙で年末を迎えた2014年も終わろうとしている。

 年初の時点では、4月実施の薬価改定の影響を見極めつつ、次回改定(16年4月)に向けて業界全体として対応準備を進めるステージと思われていた。しかし、イノベーションに対する好意的な施策が進展する一方で、制度に関する十分な理解も踏まえていないと思われる薬価の毎年改定の提案や、国際競争上の観点からはむしろ拡充が必要な研究開発税制の見直しに関する議論も出現するなど、結果的には目まぐるしい年となった。

 イノベーションに対する好意的な施策とは言うまでもなく、今年成立した「健康・医療戦略推進法」と「独立行政法人日本医療研究開発機構法」の二つの法律の成立に象徴される一連の施策である。これにより「日本再興戦略」や「健康・医療戦略」において、既にイノベーションの促進による医療の質の向上・経済発展への貢献が期待されている製薬産業に対し、研究開発を通じて本来の社会的役割に邁進するための体制整備が、より一層図られることとなった。このうち、日本医療研究開発機構(AMED)は理事長就任予定者も発表され、発足まで3カ月余りとなって期待が高まっている。

 一方、薬価の毎年改定の提案などは、現在の厳しい財政事情等を反映しているものと考えられるが、新薬創出が健康長寿社会の実現にとってどれほど重要な貢献を行うのかについての理解と共に、そのイノベーションの価値が適切に評価される薬価制度の存在や研究開発税制面の整備等がバランスの取れた産業政策として重要であることを関係者に理解してもらうことが不可欠であると考えられる。

 なお、ご承知のように毎年改定との関連でも注視された、来年10月の消費税再引き上げは先送りされることとなった。もともと、財政再建の道筋をつけると共に、社会保障制度を持続可能なものとするため「社会保障と税の一体改革」が進められ、社会保障国民会議報告書が昨年8月にまとめられ、消費税についても12年8月に成立した法律に基づいて今年4月から8%に引き上げられたが、来年10月の10%への引き上げは見送られ、17年4月に引き上げられる方向となった。

 ところで、消費税引き上げによる増収分は医療・年金・介護・子育て支援に充当されることとされていたことから、少子高齢化の進展等に伴い、今後薬価を含む医療費適正化などの効率化を求める圧力が一層強まるものと考えられ、製薬業界を取り巻く情勢は引き続き厳しいものと想定される。

 特に今年は、長期収載品を中心として想定以上の厳しい影響に見舞われている状況で、来年末までには次期薬価改定(16年4月)の改革案が取りまとめられることが予測されるが、さらには17年4月(消費税関連)、18年4月(通常改定)がどのような形で行われるのか、製薬業界のみならず関連団体がこぞって毎年改定には断固反対の立場であるが、研究開発等への影響も大きいことから今後の動きを注視していく必要がある。

 なお、医薬品の薬事承認については、業界側の手数料負担等によるPMDAの審査体制整備等によって、審査ラグが短縮し、欧米並みの迅速な審査がほぼ定着したと考えられるが、業界側も国際共同治験などの申請早期化に向けた取り組みを進めており、より一層の相互理解・協力が求められる。

 また今年、眼科領域の臨床応用への進展が見られたiPS細胞を活用した再生医療・個別化医療についても来年以降さらなる発展が期待される。この関連では改正薬事法(医薬品医療機器等法:11月25日施行)に基づく再生医療等製品の承認制度の新設のみならず、保険適用等の議論も中医協等で行われ、政府側の先端技術応用の推進に向けた環境整備面の対応として高く評価されるものと考えられる。

 また、厚生労働省が今年公表した「先駆け承認審査パッケージ戦略」も来年からの本格的実施に向け効果的な運用が期待される。

 また、昨年公開の初年度となった「企業活動と医療機関等との関係の透明性GL」については今年度、公開内容としてC項目の詳細公開が追加されたほか、公開方法についても透明性向上の観点から改善が進められた。これら業界の取り組みは「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」においてもヒアリングされた。取りまとめに基づいた臨床研究の法制化の動きについても、業界としても無関係ではありえず、今後の動向を注目する必要がある。

 今年は感染症として西アフリカでエボラ出血熱の大流行が発生し、日本企業の開発した抗インフルエンザウイルス薬が治療薬としての可能性を有すること等も注目を集めることとなったが、この流行は越年し、来年も引き続き世界的な公衆衛生上の脅威となる可能性がある。

 もとより、製薬産業としてもWHOやAPECにおける議論などを通じ、医薬品アクセス改善やNTD(顧みられない熱帯病)対策には官民パートナーシップ(GHIT)などを通じて貢献しているところであり、今後も重要な使命として引き続き取り組むことが求められていると考えられる。

 また、日本が欧米と共に3極の一つを担ってきたICHについても90年の創設以来継続してきた枠組みについて、大きな変更が加えられる方向性が確定した。15年には新たなICH協会が設立され、16年からこれまでよりも大きな枠組みでの規制調和が進められる見込みである。APAC(アジア製薬団体連携会議)の進展と共に発展していくことが望まれる。

 なお、日中韓関係については今年11月に日中首脳会談が実現し関係改善に向けた動きが見られ、その後エボラ出血熱対策を主要議題とする日中韓保健大臣会合も再開されたが、民間レベルに比べると政府レベルの日中韓の国際協力関係が以前のような状態まで回復するのかどうかについては楽観視することはできないと考えられる。

 以上、研究開発型製薬産業の課題は多岐にわたるが、政府が決定した「日本再興戦略」の中でも成長産業として期待されているところであり、革新的な医薬品の継続的な創出に邁進し、科学技術の発展への貢献、健康長寿社会への貢献と共に経済成長への貢献を担うことが強く求められる状況が一層明確になってきた年であったと思われる。



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