風化という言葉がある。年月が経過するごとに風雨によって岩が崩れていく様子だが、人々の記憶にも用いられる。地震・津波、台風から大雨や大雪など、自然災害が頻繁に襲ってくる日本という国。その中でも4年前の「3・11」に発生した東日本大震災は、被害規模が最大レベルだった。
警察庁が発表している3月10日現在の死者数は12都道県で1万5891人、未だ2600人近くが行方不明となっている。大正の関東大震災10万人や明治の津波2万人に次ぐ死者数となった。もちろん、死者数が最も多いのは70年前に終わった先の大戦であり、桁も違う。人間が起こす戦災は自然災害とは全く意味が異なる最悪で愚かな災害だ。
21世紀の「3・11」では、いろいろな課題が浮き彫りとなった。津波への甘過ぎた意識と避難行動はもとより、さらに甘かった原発事故への対応、ガソリン不足が招く深刻な状況などは、過去の震災にはなかった現代社会特有の問題として皆が痛感した。
医薬品業界では、いつも黒子に徹している医薬品卸各社が、自らも被災して厳しい状況に置かれているにもかかわらず、胸に秘めていた使命感、気概と行動力をいかんなく発揮し、数日間で医薬品をほぼ滞りなく現場へ届け始めた。他の流通業を圧倒した活動は、多くの報道によって国民に医薬品卸の存在意義と使命感に支えられた行動を知らしめる結果となった。本号の企画でも、スズケンの太田裕史社長は、全ての医薬品卸が持っている「魂」だと表現している。
命が助かれば次に必要なのは医療だ。けがの治療をはじめ被災者が以前から罹っていた疾病の治療継続もある。これら医療には薬が絶対に必要になるため、卸は自らの状況を顧みずに奮闘した。医師、薬剤師、看護師などの医療従事者の活躍も光っていた。この職業に就いている人たちの使命感の高さは、われわれの考えが及ぶ範囲ではない。
医薬品卸は、これまでの経験・教訓を踏まえた対応マニュアルを備え、訓練も重ねてきたことが素早い活動を可能にした。しかし、想定を超えた事態に全てが満足できる対応にはならなかったと自身が振り返っている。
この反省はすぐに改善策へとつながっている。「3・11」で新たに見つかった課題をマニュアルに取り入れたり、新築される物流センターでは耐震化、自家発電装置の設置がもはや前提となった。インフルエンザのパンデミック対応も含め、備えあれば憂いなしだが、何と言っても相手は自然であり、時にその威力は人智を超える。際限なく設備投資できるわけもなく、システム化、効率化も含めた対処能力の強化に追われているところである。
1万8000人以上の命によって得られた貴重な経験と教訓は、次世代へ確実に伝え続けていかなければならない。