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日本の優れた医薬品流通機能を未来に届けるための提言~持続可能性と負担の公平性の確保~

2015年08月12日 (水)

(3)顧客に対する提言

 [1]過度な価格要求の是正と単品単価取引への理解

 前述の通り、一部メーカーの高仕切価戦略もある中で、急激なカテゴリーチェンジの進展に伴って医薬品卸の利益は低下の一途であり、従来のような価格条件に応じる余地が少なくなっている。特に過度な価格要求を行う一部のチェーン調剤薬局等との取引については、今後は取引条件が折り合わなければ取引を辞退する覚悟を持つことで、他の顧客やメーカーからの信頼を維持し、結果的に日本の医薬品流通を守ることにつながるとも考えられる。これは、流通費用の負担の公平性や流通機能の安定性を確保していく観点からも重要であり、その点を顧客にも理解いただかなければならない。

 そもそも価格弾力性が存在しない調剤薬局に対して納入価格を引き下げても処方量が増えるわけではない以上、医薬品にはボリュームディスカウントはそぐわない。納入価格は購入量ではなく発注条件や配送回数、支払い条件等に応じて交渉すべきであり、同じ取引条件であれば同一価格で販売することが適切である。

 また、過度な交渉困難事例については、公的医療保険制度の下での取引であることに鑑み、公的な仲裁類似の仕組みを検討することも必要だと考える。納入側、購入側の双方が納得いかない事態が続くならば、最終的には諸外国と同様に、公定マージン制度の導入に向かうことになるだろう。

 さらに、単品単価取引についても、現行の薬価基準制度の根幹となる基本理念であることを顧客にも十分理解いただき、個々の医薬品の価値に見合った価格での妥結をお願いしたい。

 [2]環境負荷軽減のための取り組み

 前述の通り、医薬品流通では環境負荷軽減の意識が大きく欠如している。

 無駄なガソリン消費と二酸化炭素排出を削減するためには、「至急」配送の有償化も一つの方策ではあるが、まずは納入側、購入側の双方で話し合い、改善策を協議していくことが必要である。

 医薬品卸は顧客の経営支援ツールとして、各社が特徴を持った在庫管理システムを提供している。内容をよく吟味し、顧客ごとにニーズに合うものを導入することも、無駄な至急配送の削減には十分に有用である。

 たとえ「至急」で届けても、結果的に患者を待たせることになれば病人に負担をかけることになるし、後で自宅まで届けることになれば薬剤師に余計な手間がかかることになる。適切な需要予測と在庫管理によって避けられる「至急」配送は双方の努力により極力排除し、業界として省エネルギー化を推進していくことが望ましい。

(4)行政に対する提言

 [1]薬価告示の早期化

 売差マイナス解消の観点からも、メーカーからの利益体系は将来的に仕切価への反映に統一していくべきであるが、適正な仕切価設定の前提として、メーカーと医薬品卸が事前に交渉することが望まれる。

 メーカーも製品ごとに販売計画を設定しており、計画の進捗状況に応じて医薬品卸へのアローアンスを調整している。メーカーと医薬品卸の双方にとって納得性のある最終仕切価格を形成するためには、顧客との納入価格交渉で合意するのと同様にそれなりの時間がかかるものである。そのためには、薬価告示時期を可能な限り早期化することも一案である。

 [2]新薬創出加算制度を薬価維持制度へ発展的見直し

 残念ながらメーカーの新薬創出加算品における仕切価格と販売価格の呪縛を解けず、高仕切価戦略が継続されて医薬品卸の経営悪化が続くならば、新薬創出加算制度を改め、流通に対して非協力的な企業の製品を加算対象から除外するなど、流通費用負担の公平性を確保する方策を検討すべきであろう。または、後発医薬品の数量シェア目標が80%とされ特許が切れた長期収載品のシェアが急激に20%未満まで下がる方向性が明らかにされたことを考えれば、逆に特許期間中は市場実勢価格に関係なく薬価が維持される「薬価維持制度」を創設することも一案である。

 [3]エッセンシャル・ドラッグの供給確保のための薬価算定ルールの見直し

 日本の医療に最低限欠かせないエッセンシャル・ドラッグについては、長く臨床現場で使われており、臨床上には必要不可欠な薬剤である。しかし度重なる薬価引き下げと原材料・人件費の上昇により、不採算ギリギリの品目も多い。

 このようなエッセンシャル・ドラッグについては、最低薬価そのものを引き上げることも重要である。また、さらなる薬価引き下げを防ぐ意味でも、カテゴリーごとにその特性に応じた調整幅の設定が必要であり、特にエッセンシャル・ドラッグについては、市場平均乖離率以内であれば価格を据え置くなど調整幅を事実上大きく広げるような施策も一案であろう。

 [4]後発医薬品の使用促進に向けた制度の変更

 後発医薬品について、以下の3点を提言する。

 ・一般名処方などのさらなる推進

 後発医薬品のある医薬品については、一般名処方のさらなる推進、または後発医薬品への変更が不可の場合、新たにその理由を明記するなどの施策をお願いしたい。後発医薬品の銘柄を調剤薬局で選択できるようになれば、医薬品卸と調剤薬局の在庫アイテム数は大きく削減される。

 ・「みなし後発医薬品制度」の導入

 メーカーの中には長期収載品の利益で経営が成り立っているところもある。昨年まで特許品として稼ぎ頭だった品目が、ある日突然特許切れによって長期収載品となれば、自動的に主力商品が長期収載品となる。これは、どの新薬メーカーでも十分生じ得る状況である。メーカーの保護と医療費削減を両立させるために、例えば、先発医薬品の特許満了時に自主申告によって後発医薬品と同一薬価に引き下げるかわりに先発医薬品も後発医薬品扱いとして使用促進対象とする制度(「みなし後発医薬品」制度)を検討していただきたい。

 ・先発医薬品と後発医薬品の適応症の差異が生じない発売環境の整備

 先発医薬品と後発医薬品の効能の違いが多くあるが、調剤薬局において患者の正確な疾患が特定できない現状では、後発医薬品への切り替え時に適応症が合致しているかどうかを判断することは不可能である。これは、後発医薬品数量シェア80%時代に向けて解決すべき課題である。

 安心して調剤薬局で後発医薬品への変更を推進していくためにも、例えば先発医薬品と同じ効能が取得できなければ後発医薬品を発売できず、後発医薬品が発売された後の先発医薬品の効能追加は特許権を主張できない制度、あるいは、後発医薬品は先発医薬品に効能追加があった場合にはロイヤリティを支払った上で効能追加しなければならないといった制度に改められないか、検討していただきたい。


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