[3]未妥結減算制度の導入によるコスト負担
昨年導入された未妥結減算制度により、医薬品卸と対象医療施設との納入価格交渉について、薬価改定半年後である9月末までに妥結することが求められるようになった。制度導入により、早期妥結の増加や価格の遡及見直しの禁止など、流通改革に大きな進展があったことは事実だが、一方で、この制度は医薬品卸の大きな負担の上に成立していることにも留意が必要である。
卸は対象施設における納入データの作成および提出を行わなければならず、短期間で集中的に価格交渉・妥結手続きを行った人材の疲弊等に加え、未妥結減算対応システムの導入に伴うコストや書類作成・印刷にかかる人件費、膨大な量の提出資料の印刷に要するコスト等が発生した。この軽減も重要な課題である。
[4]道のり険しい単品単価取引の実現
国民皆保険制度の大きな特徴の一つは薬価基準制度である。医薬品卸が薬価調査に応じることによって、国は1万7000品目の個別医薬品全ての市場実勢価格を把握することが可能となり、その調査結果をもとに次回の新薬価が決まる。すなわち、単品単価取引は、現行の薬価基準制度の根幹を支える基本理念だということである。画期的な新薬に対し、収載時にいくらその価値を高く評価して加算をつけたところで、その後の市場取引価格がその価値に見合ったものとなっていなければ、改定時に適切な薬価を設定することはできない。つまり、個々の医薬品の価値に見合った市場価格の形成は、医薬品卸の最も重要な機能の一つなのである。
しかし、現実には、単品ごとの交渉ではなく、取引している医薬品全体を一括りにした総価取引が行われているケースも未だに残っているのが実態である。近年は業界を挙げて単品単価取引の実現に向けて努力している。しかし、未妥結減算制度が導入された昨年度は、9月末までの短期間での妥結を優先せざるを得なかったため、一品一品を念頭に置いた十分な価格交渉を行うことができず再び単品総価取引の比率が増加してしまった。妥結水準の面で極めて厳しい条件での妥結となっただけでなく、一部では十分な検討期間がとれないまま納得感の低い妥結となったこともあり、半年単位契約の比率が大幅に増加した。これらは、この制度を今後運用していくに当たっては大きな課題だろう。制度変更が短期間で行われ、妥結までの期限も短かったなどの制約要因はあるが、価格形成に責任を負う卸としても大いに反省しなければならない。
[5]薬価基準制度下での共同購入など
完全な自由経済ではなく、国が医薬品の最終消費者価格を決定する薬価基準制度下において、果たして地域も機能も異なる医療機関等による同一価格での共同購入は適切なのだろうか。
国民皆保険のおかげで国民は全国どこでも誰でも同じ窓口負担で同水準の医療を受けることができる。技術料や治療に必要な医薬品の価格を国が決定することで、地域差なく医療を受けられることはわが国の医療制度の大きな特徴である。医療機関ごとの専門性や患者数に違いがあることで、必要とする医薬品の種類や数量は大きく変わる。したがって、医療機関ごとに医薬品の納入価格に格差があることはある意味当然である。1カ所に一度に大量に納品する商品は納入単価を下げることができる。スケールメリットが働き一つあたりの流通コストが割安になるからである。ところが、現在は複数病院による共同購入や調剤薬局チェーンの一括購入により、医療機関ごとの特徴を踏まえない医薬品の価格設定が発生している。これは薬価基準制度下で求められる適正な状況とは言い難いのではないか。
また、共同購入といっても価格交渉のみであり、各病院・各店舗への配送まで医薬品卸が担っているというケースが多い。これらは、配送コスト面でいえば1病院・1個店薬局に対する取引と何ら相違がない。流通費用の公平な負担という観点から考えれば、このような状況がさらに拡大するようであれば、例えば配送費用は商品価格とは別建てとして配送回数で請求するといった方法なども一考に値するし、制度面でも何らかの対応を講じるべきではないだろうか。
なお、近年特に目立つようになってきた価格交渉代行業者による交渉においても、薬価基準制度の趣旨や単品単価の理念にそぐわないものが相当程度見受けられる。これらについても、同様に、流通費用負担の公平性の観点から適切な対策を検討すべき時期に来ているのではないか。
[6]至急配送機能の無償提供
医薬品卸は、顧客から「至急」配送を依頼されれば、追加配送料を徴収することなく届けてきた。医薬分業の特性上、調剤薬局にはどのような処方箋が持ち込まれるかは分からず、患者が必要な医薬品の在庫がなければ「至急」で届けることは当然の卸機能であると考える。
しかし実際にはこのような新規受注よりも、通常購入の医薬品を「至急」として届けているケースの方が圧倒的に多い。在庫管理に対する意識については、顧客ごとに大きな差があると言わざるを得ない。
昨今では、地球温暖化対策のために二酸化炭素排出量を減らすための省エネルギーの取り組みや再生可能エネルギーの利用を積極的に進めていくことが求められてきた。環境負荷削減のためにエコバッグが定番化しつつあり、スーパーマーケットの袋を有料化する動きも増えつつある。
そんな中、医薬品流通では無駄なガソリン消費の削減に対する意識が欠けており、環境への配慮が足りない。真に必要な緊急配送以外の恒常化した「至急」配送は、有償化も含めて早急に是正すべきではないか。もちろん、この場合、例えば在庫管理に起因する場合と後発医薬品の銘柄数の多さに起因する場合とでは、「至急」配送費用の請求先が異なる可能性があることにも留意すべきである。
[7]地域包括ケアシステムにおける医薬品卸の新たな役割と課題
今後、日本の医療提供体制が「病院完結型」から「地域完結型」へと変革していくことで、医薬品卸の役割は大きく変化する。「医療」「介護」「すまい」「予防」「生活支援」の五つのキーワードに沿って、医薬品のみならず、医療・衛生材料、検査薬・OTCのよりきめ細かい地域流通体制に変化していかなければならない。
その一つが医療材料である。従来は病院で使用することが多く、大包装単位で販売されてきたが、地域医療では診療所中心となるため大包装は負担が大きい。患家(利用者)への供給体制として07年の医療計画で保険薬局に医療材料の供給を望まれたが、保険薬局での負担が大きいため進まなかった。現在では一部の医薬品卸によって医療材料の分割販売が実現され、調剤薬局の負担がなく供給できるようになった。14年の診療報酬改定では調剤薬局が保険請求できる特定保険医療材料が大きく増えたが、償還価格が実勢価格より低いことが散見され、保険薬局からの特定保険医療材料給付の広がりに足かせとなっている。
麻薬の流通も問題視されている。がん患者の増加により麻薬の使用量が増加しているが、現状の厳しい法規制により、県境を越える流通や分割販売等が実現できていない。
地域包括ケアシステムを支える上で多職種連携も欠かせない。地域における医療側と介護・福祉側施設の役割・機能を支援し、物流だけではない体制が求められている。
さらには、余剰在庫の削減や残薬問題にも対応していく必要がある。そのためには、これまでのように生産側の主観に立ったサプライチェーンから顧客の需要を起点としたデマンドチェーンに大きく変化しなければならない。例えば、顧客の需要を起点とした適正在庫管理をはじめ、医薬品メーカーへの需要に関する情報のフィードバックを行うなど、新たな事業構造の構築にチャレンジしなければならない。