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日本の優れた医薬品流通機能を未来に届けるための提言~持続可能性と負担の公平性の確保~

2015年08月12日 (水)

2.医薬品卸が果たしている役割

 日本の医薬品卸は諸外国の卸や他の物流業者と比較しても独自の役割を担っており、日本の医療・国民の健康にとってなくてはならない存在である。日本医薬品卸売業連合会では医薬品卸の機能として、[1]物流機能[2]販売機能[3]情報機能[4]金融機能――の四つを挙げている。欧米の医薬品卸や他の物流業者との比較の観点から、日本の医薬品卸が果たしている役割について改めて確認したい。

 [1]物流機能~世界に誇る安定的な医薬品流通インフラ~

 日本の医薬品卸は、国民皆保険制度下において医薬品メーカーと医療機関・調剤薬局の間に介在し、安全性・安定性・効率性の高い医薬品流通機能を有している。離島や過疎地域を含め全国約16万軒という世界最多の医療機関・調剤薬局を綿密に網羅し、医療流通コスト・社会的コストの削減に貢献している。また、諸外国と異なり日本には偽薬が基本的に存在しないのは、医薬品卸経由の販売による安全性が確保されているからである。

 医薬品卸の流通インフラは平常時だけのものではない。大災害時や緊急時にこそ、その流通機能の強靱性が発揮される。東日本大震災時では、車が通れず給油もできないという状況下で主要な物流業者が供給不能となる中、医薬品卸は避難所や病院等へ迅速に医薬品を供給し続けることができた。これは、医薬品卸が平時から大災害時の過酷な状況を想定した投資を継続的に行ってきた成果である。東日本大震災以降はさらに投資を行い、医薬品安定供給の使命のもとに不断の努力を続けている(表1)。また、被災地である宮城県では、医薬品卸が日本医師会災害医療チーム(JMAT宮城)へ参画する等、高い信頼を得ている。他の物流業者はこれほどの高度かつ強靭なインフラは有していない。

表1 2011年以降の物流強靱化のための投資額(5卸の集計データ)

表1 2011年以降の物流強靱化のための投資額(5卸の集計データ)

 また、医薬品卸特有の機能の一つとして需給偏在調整機能がある。東日本大震災時の品薄状態で混乱した状況下であっても、行政や病院の要望を聞くと共に、特定医療機関への医薬品偏在を回避するため、本当に必要な先に必要な数量の医薬品を提供する需給調整を行うことで、早期に安定供給を回復させた。どの医療機関に何があり何がどのくらい必要かを把握している医薬品卸の強みと使命が生かされた事例である。

 このようなインフラと需給偏在調整機能は、過去起きたパンデミック時に速やかに対応したことに加え、今後起こり得る可能性がある新型インフルエンザ等のパンデミック時にも役割を果たすことが期待されている。混乱時に、単なる発注順ではなく全体の需給状況に応じて、限られた資材を適切に配分し、速やかに供給することは、他の物流業者では不可能な医薬品卸固有の機能である。

 [2]販売機能~販売促進・販売管理・コンサルティング等の多様な機能~

 日本の医薬品卸は欧米卸には存在しない販促機能を有している。日本には全国約1.8万人のMS(Marketing Specialist)が存在し、約6.6万人のメーカーのMR(Medical Representative)と協業して新製品を中心とした販売促進活動を担っている。MSは医薬品等の販売だけでなく、医療機関・調剤薬局の開業支援・在庫管理・SPD等、様々な経営支援サービスを提供することで医療機関・調剤薬局の経営効率化に寄与している。

 また、約16万軒の医療機関・調剤薬局に対し、全ての医薬品の販売価格を交渉・決定していることも日本の卸特有の機能である。そして医薬品卸は、決定した販売価格を定期的に薬価調査で国に報告しており、これにより、世界に例を見ない、市場価格を基礎とした正確で公平な薬価基準制度が適正に運営されている。この機能が正常に果たせなくなるような不合理な負荷をかける制度見直しを行った場合には、日本の皆保険の運営にも重大な問題が生じかねないことに留意すべきである。

 [3]情報機能~顧客に応じた医薬品等の情報収集・提供~

 MSは医薬品の添付文書・副作用・適正使用等の情報提供、および収集機能も担っている。顧客の要望に応じ、医薬品卸としてバイアスのない客観的な情報等を提供することで、医療機関や調剤薬局の円滑な意思決定を促している。MSの販促は約70%の医師の処方に対し一定の影響を与えているというデータもあり、MRより低コストで医薬品採用に貢献している。

 また、MRに対しても医療機関情報等を提供している。MRは全ての処方元に面会しているわけではなく、医薬品メーカーの医師との接点は減少している。これとは逆に、医薬品卸は適正使用活動の支援機能を今後ますます担うことになる。

 [4]金融機能~医療機関・調剤薬局の経営に貢献~

 医薬品卸は医療機関に対する金融機能も有している。14年度の日本の月平均医薬品販売額は約0.7兆円、医療機関が卸に支払う平均支払いサイトは約3カ月であるので、医薬品卸は2兆円超の債権を抱えていることになる。約200社ある医薬品メーカーに対する債務と約16万軒の医療機関や調剤薬局の債権を管理することで保険制度の柔軟な運営に貢献している。

 特に、医療機関・調剤薬局を取り巻く経営環境も厳しさを増しており、仕入れ価格水準や支払い条件等において医薬品卸が医療機関・調剤薬局の経営安定化に寄与しているといえる。これも医薬品メーカーからの直送や他の物流業者では代替できない機能である。


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