医療の実態を反映したリアルワールドデータ(RWD)の活用が注目を集めている。複数の関係者を取材し、具体的な活用方法や展望について話を聞いたが、想像以上にRWDの利用は進み始めており、将来の活用も強く期待されているとの印象を受けた。
RWDとは、医療現場で行われている医療や調剤の行為を、二次利用可能な形で電子的に収集して構築したデータベースのことだ。代表的なものとしてレセプト、調剤薬局、DPC、電子カルテの四つのデータベースがある。
製薬会社はこれまで主に、マーケティング戦略の構築にRWDを活用してきた。臨床現場で自社製品がどのように使われているのか、なぜ売上が伸びないのかなどを解析するのにRWDは役立つ。例えば、どの患者層で服薬コンプライアンスや処方継続率が低いのかが分かれば、その要因を探り、対策を講じられる。
近年は研究開発領域での利用も進んできた。RWDを解析して医療現場の実態を把握できれば、開発中のシーズの事業性判断や、最適な治験デザイン設計に役立てられる。
より上流の創薬プロセスでも有用だ。RWDの解析によって薬が効く人と効かない人の特性を明らかにできれば、薬が効かない人は実は、病態は似ているものの違うメカニズムの疾患だった可能性にたどり着けるかもしれない。アンメットメディカルニーズを把握し、薬が効かない要因を解析して新たな創薬ターゲットを見出すアプローチにRWDを活用できる。
直近では、製造販売後調査におけるRWDの利用に関係者は注目している。現在の製販後調査は主に、MRが医師から調査票を回収する方法で実施されている。この方法に加え、RWDの解析結果の活用を認めるべく、2018年度までに医薬品GPSP省令が改定される見通しだ。それに向けてRWDのデータベースを保有する機関は現在、製販後調査向けのサービスを構築しつつあるようだ。
併行してRWDの基盤整備も進んでいる。RWDの中では、検査値やアウトカムを把握するのに有用な電子カルテのデータベース構築が立ち遅れていたが、国は18年度の本格稼働を目指して、10拠点23病院、300万人台の電子カルテ情報を集積する「MID-NET」の整備に取り組んでいる。
ほかにも一般社団法人「健康・医療・教育情報評価推進機構」が全国の約130病院と契約を締結し電子カルテデータベースを構築。現時点で25病院、450万人分のデータが活用可能な状態になっている。
アカデミアからの関心も強い。医療の実態をそのまま反映したRWDを解析する観察研究は、特定条件下で実施される前向き介入研究とは異なる新たな知見を導き出せる可能性を秘めている。n数は膨大で、安価な費用で研究を行えるというメリットも大きく、活用が進む見込みだ。