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調剤薬局と医薬品卸業が産業として共通基盤に立ち発展していくための提言~医薬品卸の反省と課題を踏まえて~

2017年11月06日 (月)

(3)調剤薬局に対する国民の視点

 調剤薬局は社会が求めているような機能充実のための経営努力をしているのかという存在価値そのものへの問題提起、国民の負担に対する受益感の薄さの問題提起もある。

 医薬分業を一つの単語で英訳することはできない。医師が処方し薬剤師が調剤するという行為を英訳するしかない。そしてその行為は医療先進国では当然すぎて議論にすらならない。

 「調剤権」は薬剤師の最も重要な権利であり、ヨーロッパ諸国では国家が薬剤師の独占的調剤権を認めている。アメリカでは健康保険会社がほぼ同様にそれを認めている。「調剤権」という特権を薬剤師が維持する一方、薬剤師は多くの義務を負う。

 例えば、

 1.いつでもどこでも必要な医薬品を安定的に国民に供給する責任

 2.医薬品の副作用、過剰、重複投与、相互作用などの危険から国民を保護

 3.医薬品についての完全な把握

 4.医薬品の厳格な管理

 5.偽薬の排除

などである。

 日本においては、調剤権は薬剤師にのみ属した特権ではない。医師にも調剤権があり、それは時として薬剤師の調剤権よりも大きい場合がある。例えば、院内調剤の診療所では、医師の監督下で家人や事務員等が調剤することができ、また患者宅への調剤済み医薬品を送付することも合法的に認められている。薬局薬剤師の調剤権をはるかに超越している。

 なぜこのような状態が放置されているのだろうか。それは院外処方箋をより多く求めた調剤薬局、薬剤師が処方箋を院外にするか否かの権利を持った医師に対して本格的議論を挑めなかった……という背景があったのではないかという推論が成り立ち、それこそが医師と薬剤師の処方と調剤の分業を阻害している要因と言えるのではないかと考えられる。

 本来医薬分業は、患者がそれぞれかかりつけ薬局、薬剤師を持って、という薬物療法をより安全にかつ「薬漬け医療」と揶揄された状態から脱却するために始められたはずである。また、医療人としての薬剤師の社会的機能の拡充を通して、より適切かつ経済効率の高い薬物療法の推進を目指したはずである。しかし、現実は調剤報酬と薬価差の経済的インパクトが大きく「処方箋獲得ビジネス」に傾斜し「立地ビジネス」になり、国民の薬局に対する「受益感」「利便性」が実感できない状態になっている。

(4)調剤専門薬局の限界

 私たちは国民皆保険制度によって、全国どの医療機関でも受診できる権利が保障されている。私たちは自分がどの医療にアクセスできるのか、その支払いはできるのかを大きくは気にしていない。まさに医療は空気と同じ存在であると言ってもよい。

 医療産業は診療報酬が出来高払い制度であるため、患者確保を至上命題とする。患者数に患者1人当たりの診療単価積算を乗じた総体が医業収入になるからだ。これはアメリカのマネイジドケアと呼ばれる健康保険会社が採用している支払い方式、つまり人頭払い方式とは大きく異なる。マネイジドケア健康保険会社は契約している医師に対し、その医師をプライマリードクターとして選択した患者数に対し、1人当たり、1カ月一定額を支払う。患者1人当たり定額払い方式である。医師の立場に経済的側面からだけ立って見れば、患者ができるだけ来ない状態が、コストを最小化することになる。

 即ち、日本の医業収入は「増患」によって最大化するが、アメリカのそれは「減患」によって収益が最大化する。この人頭払い方式が、日本でもしばしば話題に上がる“リフィル”を可能にしていると言っても過言ではないだろう。

 日本の出来高払い方式が医療費の高騰、患者の受益感の低下、保険財政の悪化の主因になっているのではないかという問題提起の一方で、診断の結果に対して様々な治療行為を行うことで重症化や余病併発を防ぎ、平均余命を世界一に水準に引き上げる原動力になったという評価もできる。医療機関の視点に立てば、患者数をいかに増やすかは経営の第一目標になることは理解できる。

 一方、調剤薬局ではどうだろうか。日本の調剤薬局で最も典型的な出店は医療機関の門前に1:1で出店することであるが、調剤薬局の経営規模は門前の医療機関の集客力に大きく依存し、自ら努力して患者を増やすことは容易ではない。門前から地域へ、という方向性は理解できても具体的行動にはなかなかつながらず、門前の処方元の集客力を超えるのが困難である。門前から地域へという方向性は理解できても調剤薬局経営者、薬剤師の具体的行動にはなかなかつながらないというのが現状である。その典型が大半の調剤薬局の営業時間は、門前処方元のそれに合わせたものであることが証明している。

 例えば、ここに1日50人の患者が処方箋を持って来局する調剤薬局があるとすると、この調剤薬局を円滑に運営し、薬剤師が平均的休暇を取るためには2人のフルタイム薬剤師と1人のパートタイム薬剤師、即ち2.5人の薬剤師が必要となる。ここに500人の患者が処方箋を持って来局する調剤薬局があると想定しよう。10倍だから薬剤師も10倍必要かと質問すると、多くて20人、17~18人の薬剤師でやっていけると回答するだろう。17人×40枚=680枚であるから、員数制限から見ても余裕である。処方箋枚数が10倍になると、薬剤師の生産性が上がるのである。逆に言えば、現状の規模を放置したままでは、調剤薬局経営には生産性という要素を入れることができず、低い生産性を補う高額な調剤報酬を必要とする。財政負担、国民の負担は減少させられないのである。

 乱暴な比較かもしれないが、アメリカ合衆国の人口は3.23億人、薬局で働く薬剤師は約16.1万人である。日本の人口は1.27億人、薬局薬剤師はアメリカとほぼ同数の約16.1万人という状況である。アメリカの薬剤師のプロフェッショナルフィーは処方箋1行約200円となっている。日本の調剤技術料は約2,300円であり、処方箋1枚当たり3.5行とすると、もしアメリカ並みの技術料であるならば700円という計算になる。人口当たり3倍に近い薬局薬剤師数、それを支える高額な調剤報酬、生産性は約3分の1。つまり現在の経営規模では生産性を求めることは不可能だという現実を調剤薬局経営者は考えないと、次の展開は大幅に制限されると思われる。

 後発医薬品の数量シェアが今後増加する中で、調剤薬局経営の最大の問題はキャッシュフローの減少だということは既に指摘した。たとえ薬価差と加算が利益を維持しても、キャッシュフローの減少は調剤薬局経営を直撃する。これを打開できるのは生産性の改善が最も効果的であるが、その前に員数制限(一般的には40枚制限)が立ちふさがる。

 さらに員数制限の緩和ないしは撤廃があるとしたら、薬剤師の必要数は大幅に減少するが、その一方で自動調剤システムや調剤ロボットを導入しようとして、現状の店舗設計で設置できるスペースがあるのかが大きな問題になる。想像でしかないが、自動化できる可能性のあるスペースを持っている薬局は全体の10~20%かもしれない。特に医療集積の高い都市部ではこの数字はもっと低いであろう。その場合、複数の薬局が共同で移転し、大型薬局を開局できるかどうかが次の課題となる。

(5)ドラッグストアの脅威

 2016年の調剤報酬改定では、「かかりつけ薬剤師指導料」が新設され、薬剤師の技術に対してフィーを付与する方向性が示された。加算を算定するには、患者の服用する薬剤(OTC医薬品を含む)をかかりつけ薬剤師が管理することが求められている。

 「かかりつけ薬剤師指導料」の算定回数は少しずつ増えているようだが、本当に患者の薬剤をすべて管理し、薬の飲み残しや重複、副作用などがないか等を一つの薬局で継続的にチェックできているだろうか。

 そもそも論で言えば、果たしてそのような機能を調剤薬局、薬剤師に求めるべきなのかどうかという疑問がある。アメリカを例に取れば、まず患者が過去受けてきた処方歴、調剤歴のデータベースが、患者が加入している保険会社に完備してある。被保険者が保険会社を変更する場合も被保険者のデータは新たな保険会社に引き継ぐことができる。その上で今回の処方内容がデータベースから見て相互作用、重複、ドーズチェック、過去副作用歴などから適正か否かをデータベースが判断できるようになっている。この時代としてはAIなどとあえて言わなくても極めて普通のことである。

 データベースの判断は直ちに処方医に伝えられ(実測で3~4秒)、必要に応じて処方変更が行われる。調剤過誤を避けるための当然の行動である。それを日本では、お薬手帳などを使って薬剤師がするよう求めている。果たして可能なのか?。薬剤師が相互作用や、重複を発見した場合、それを処方医に伝え処方変更を求めることが普通に可能なのか?。もう一つの疑問はデータベースと薬剤師は競争する必要があるのかどうか?。答えは否である。産業革命の機械打ち壊しの愚を薬剤師にさせないこと、薬剤師がデータベースを使いこなす側にいることが求められる。この根拠は前回改正と同時に発表された電子処方箋の全面解禁にあると考えられる。

 調剤売上が好調なのがドラッグストアである。上場しているツルハやウェルシア、スギ薬局などの開示資料を見ると二桁以上の伸長率を示している。ドラッグストアでは検体検査室の設置も増えており、自己採血での血液検査により生活習慣病関連のセルフチェックが可能である。検査結果が出た後は、薬剤師や管理栄養士がアドバイスを行い、健康維持・生活改善のサポートを実施している。

 このようなドラッグストアの行動は、彼らの店舗立地と無関係だとは思えない。ドラッグストアのほとんどはいわゆる門前型ではなく、処方元からの影響を大きくは受けず、患者本位の活動、調剤薬局本来の活動が比較的自由にできる立地にある。

 また健康教室や認知症カフェ、ケアラーズカフェなどの取り組みも進められており、24時間営業の調剤併設店も増えている。厚労省が推進する「健康サポート薬局」に対抗し、ドラッグストア協会では「健康サポートドラッグ」を提唱し始めた。高齢者トイレやAEDの設置、クレジットカードでの支払い、調剤ポイントの付与も含めて、薬局に対する「受益感」「利便性」という点においては、ドラッグストアの方が上回っているだろう。その結果として、二桁成長が実現していると言える。


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