3.未来への提言
(1)取引基本契約に基づいた取引の近代化
私たちは遅きに失した感はあるが、今回相対取引契約の精神をベースにして、取引契約で取り決めるべきと思われる項目を再点検した。以下の通りである。大いに議論され、取引の近代化、現代化を図れるようのぞみたい。
1.取引開始時(あるいは契約時)に第三者が評価した双方の決算書(新規出店の場合は、予算書など)を交換し、取引限度額の設定、商品代金の支払期間などを設定する。
2.契約期間は未妥結減算制度に基づき、毎年度9月末までに1年間の価格決定を行い、遡及値引の禁止を明示する(早期妥結には当然、プライオリティが発生する。翌年度に前年価格の訂正を求めるような行為は減算対象として報告)
3.納品時検品(双方の合意により省略可能)で承認された場合、直ちに所有権移転が行われたものとみなす。
4.価格交渉と決定は予定数量を明示し、取引条件(発注方法、配送回数、支払方法と期間など)を反映させて決定する(予定数量と実取引量の増減は次年度の値引き、値増し対象になる)
5.返品は、メーカーへの返品が可能な商品は納品後2週間以内に行い、これ以外は回収命令品と誤配送以外の返品は行わない。
6.配送回数は顧客との交渉で決定した回数以外の配送は1回ごと定額制とする(1日1回をベースにして複数回の配送は取引条件としてみなし、価格に反映することができる)
7.医薬品卸の共同配送はこれを否定しない。
8.取引全体の省力化、環境への配慮、IT化を進めるために、取引全体の電子化、すなわち、電子的発注、電子納品書、フィンテック活用などを相互に検討する。
9.仮納品は価格交渉期間を基本にするが、その期間は相互の合意に基づき決定する。
10.以上は、大災害時にはこれを適用しない。
(2)医薬品卸による調剤薬局の経営支援
アメリカの医薬品卸は拮抗した規模の3大卸の寡占化状態にあるが、それぞれが独立薬局のグループと共同事業を展開している。医薬品卸と調剤薬局の関係は、シングルベンダー契約である。
例えば、3大卸の一つであるアメリソース・バーゲンでは「Good Neighbor Pharmacy」という独立した個人薬局の経営支援プログラムを展開している。薬局がこのプログラム(有償)を活用することで、マーケティング、広告、マーチャンダイジング、スタッフ教育などの様々な支援を効果的に受けることができる。また「ScriptPro」という自動調剤機械を導入し、対物業務は機械に任せている。そこで生まれた時間を活用し、服薬指導やカウンセリング、生活支援などの対人業務を実施している。
一つひとつの独立薬局の規模は小さいため、各々が戦略を練ろうとすると大きなコストがかかるが、多くの薬局が一つのプログラムを活用することで、ローコストで大きなメリットを享受することが可能となっている。
アメリカ合衆国独禁法は、医薬品卸による薬局垂直統合を認めていないために、このような共同事業も卸の支配を受けるわけではなく、薬局の活動を卸が支援することが第一義的にあり、共同事業を推進する時に医薬品卸の品揃え、物流力、総合的企業力を薬局は活用する。単に販売契約に基づく取引関係ではなく、まさにビジネスパートナーとして相互の関係が構築されている。
日本国内においても、医薬品卸と調剤薬局がこのような関係を構築できれば、例えば複数の調剤薬局が共同で新規大型自動薬局を開設する場合の大きな力になると考えられる。
診療報酬改定への対応、ICT化への取り組み、薬剤師不足、後継者不在など厳しい環境が増すにつれて、薬局M&Aは増加していくと予測されるが、M&A市場も売り手優位から買い手優位に移行しつつある。
医薬品卸の資本力、総合的企業力を活用することにより、様々な障壁を乗り越えられる薬局経営支援プログラムを構築、実行しなければならない。
(3)薬剤師の専門性向上
ドラッグストアに患者を奪われないためには、調剤薬局は立地に頼るのではなく、専門性の向上に努めなければならない。具体的には、残薬の解消や服薬アドヒアランスの向上のための取り組みなどが挙げられる。
残薬があることが判明した患者に対しては、ブラウンバッグの提供などを通じて飲み残した薬剤を持参してもらい、処方医に確認の上で処方日数の調整を実施する。その上で残薬が生じた理由を踏まえた処方変更や残薬の再利用などを通じて、患者が「どの薬を飲んでいるか」ではなく、「実際に飲めているのか」、また「効果が出ているのか」という点を重視し、アドヒアランスの向上に努めることが、薬剤師に求められる薬物の一元的管理に結びついていくはずである。
同時に処方変更などで不要になった薬剤を薬局で処分することで、飲み間違いによる事故を未然に防止できる。患者と家族を健康被害から守り、安心できる医療を提供することにつながる。
これからの調剤薬局は医薬品を介したサービス業として、一人ひとりの患者に向き合い、癒しや満足を与えられなければ、ドラッグストアに患者を奪われ、淘汰され、調剤薬局は産業として衰退期を迎えることになる恐れがあると思う。