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調剤薬局と医薬品卸業が産業として共通基盤に立ち発展していくための提言~医薬品卸の反省と課題を踏まえて~

2017年11月06日 (月)

2.医薬品卸の反省と課題

(1)あってないがごとき調剤薬局と医薬品卸との取引契約書

 調剤薬局と医薬品卸間の取引は「取引基本契約」に基づき行われている。しかし、ほとんど具体的な取り決めがないためにその実効性は低く、不幸にして倒産した調剤薬局の前では、医薬品卸の債権はその権利において最後尾になっているケースがほとんどである。

 そもそも取引契約とは相対取引であり、50:50の関係を基本とする。しかし、残念ながら医薬品卸と顧客間の契約関係は、取引を証明したり医薬品卸が安定供給を約束するだけの極めて不平等な契約になってしまっている。

 医薬品卸と医療機関の取引は極めて古く、相互に知り合える土着的関係からスタートしたため、あえて契約とはなり難いことは理解できる。しかし医薬分業が本格化し従来の土着的信頼関係にはない多くの顧客が出現してきた時に、この取引契約について、従来の「取引を約束する契約」から「相対契約を確認できる契約」に変更できなかったのは、売上至上主義であったと大いに反省すべき点である。

 医薬品卸が売上至上主義に走った要因は、医薬品メーカーとの利益構造に起因する。メーカーからの主な利益については、以下のものが挙げられる。

 1.販売促進企画の達成率に応じて決定するアローワンス

 2.当該メーカーからの仕入額に応じて決定する取引高リベート

 3.仕入回数、仕入拠点への着荷率に応じて決定する物流リベート

 4.支払期間に応じて決定する金融リベート

 これらの中で販売促進企画に関するアローワンスや、当該メーカーからの仕入額に応じて支払われる取引高リベートが未だに多くを占める傾向にある。前述のように医薬分業の進展と共に、調剤薬局という新しい顧客が生まれ、医薬品卸にとっての最大の販売先となった。医薬品卸は販売額に関わるメーカーからの利益を最大化するために、適正価格を下回る価格を提示してでも売上を求める、という売上至上主義に走ってしまった。

 その結果として本来あるべき対等な取引関係を構築することができず、薬局優位の取引形態が固定化している。

 また日常取引の面で見れば、顧客からの発注方法で最も普及しているのはEOS(電子的発注)である。地域により差はあるが、発注量全体の70~80%がこれである。ある大手卸の例では、EOSでの卸側の受注コストは1発注当たりおよそ2円である。これに対し電話やFAXによる発注になると、卸側にデータ入力等の人的作業が発生し、その受注コストは一気に120円に跳ね上がる。実に60倍のコストがかかるのである。

 同時に配送コストを比較すると、定期配送コストは1回当たり500円弱であるが、緊急配送のコストは5,000円弱と10倍のコストがかかる。緊急配送は電話による受注になるが、受注と配送コストの合計で最低でも5,120円かかるわけで、この受注から得られる粗利が、最低5,120円なければ赤字を生み出す行為にしか過ぎないという見方もできるのである。

 返品についても、顧客と卸間の契約上の取り決めは全く不十分であり、無原則な返品が横行している。ごく一部とは言え、月末在庫を減らすために大量の返品を行い、月初に元に戻すために発注をするという悪しき慣習に振り回されるケースもある。この場合、返品処理と受注処理合計で600行を超える作業を余儀なくされる。

 このような事実を公にし、取引の近代化、現代化を進めなければ、医薬品流通のコストを合理化し、社会的コストを減じていくことはできないだろう。

(2)後発医薬品に対する医薬品卸のスタンス

 10%強の売上の後発医薬品が、医薬品卸の物流センターの倉庫面積の50%を超えるという実態は、調剤薬局の調剤室にも全く同様の実態として反映される。

 制度面で、後発医薬品の種類を合理化できる可能性は、一般名処方の義務化であることは分かっており、さらに後発医薬品価格の合理化、銘柄別収載の廃止も考えられる。

 しかし、このことを議論していくとき、医薬品卸が主体的にできることはないのだろうかという問題に直面する。それは医薬品卸自らが取引する後発医薬品メーカーを少数に絞ることである。プライベートブランドも一つの積極的選択である。

 後発医薬品をエビデンスに基づき選択し、その選択基準を公開することで医薬品卸間の差異は最小化し、医薬品卸が取り扱う後発医薬品メーカーは削減される。それにより調剤薬局が取り扱う後発医薬品数も大幅に合理化できる。この場合、薬剤師は処方医に対して、積極的に処方集の作成に関わりを持ち調剤薬局の取扱品目に理解を求め、協力を求めていくスタンスが必要である。

 これら医薬品卸、調剤薬局が当然なすべきことを行わないまま、行政に要望を出すことは自立した産業への転換を図れず、産業の近代化、現代化を阻害すると思うのである。

(3)医薬品卸が発揮すべき機能

 メーカーの視点に立つと、売上至上主義に走っている医薬品卸に対し、仕切価格を下げると、競争の原資に使ってしまうと考えるだろう。薬価を守りたいメーカーは仕切価格を高止まりさせ、売買差益のマイナス分をアローワンスで補填調整するという悪循環が常態化している。

 医薬品卸は重要かつ不変的な二つの価値を顧客である医療機関や薬局、メーカー、そして行政に認知させることや、価値を最大限発揮する努力が足りなかった。二つの価値とは、「医薬品卸の値付け機能」と「債権管理機能」である。

 「医薬品卸の値付け機能」の価値は、日本が世界に誇れる医療水準を維持するうえで、重要な要素の一つである医薬品の値付けは医薬品卸が担っている。この事実を多くの医療関係者および行政も認識しているものの、医薬品卸の価値を正当に評価していない。また医薬品卸としても、これまで十分に周知してこなかった。

 結果として、メーカーは医薬品卸が保有すべき適正な価格統制能力を喪失したと見ており、メーカーは総じて仕切価を薬価改定ごとに上げており、最終的にはアローワンスで調整している。医薬品卸は長年にわたりメーカーのアローワンスによって本来価値ある値付け機能を麻痺させられてきたのである。

 医薬品卸は今こそアローワンス依存から脱却すべく、値付け機能を見直すことにより医療機関や薬局、メーカー、そして医薬品卸の三位一体となり、本質的課題の理解を深め改革の方向性を見出すべきである。

 二つ目の価値である「債権管理機能」は日本の市場が10兆円とした場合、3カ月サイトで考えると2.5兆円を卸が担っている。日本の医薬品卸は長年メーカーの債権管理機能を担っており、メーカーは既に日本の14万軒におよぶ医療機関や薬局に対する債権アカウントを保有していない。

 前述したように薬局は利益だけではなく、キャッシュフローが今後の経営において重要な要素になることが明確な中、倒産軒数が増加する懸念があり、医薬品卸の債権管理機能が果たす役割と責任は極めて大きい。

 これまでのような曖昧さは取引契約および未契約の中では、薬局の経営破綻時に本質的に対応することはできず、受け身の状況は全く変わらない。医薬品卸が医療機関・調剤薬局に対し、提案型の債権管理機能を担うべき時期がきているのではないか。

 調剤薬局の経営者が真の意味で医薬品卸をビジネスパートナーとして認め、提供する価値を認め、医薬品を購入する対価を支払うだけではない時代が到来すべきである。

 いずれにせよ、医薬品卸はこれまで果たしてきた役割を見つめ直すことに加え、大きく、そして本質的に変化させるべき時期にきている。医薬品卸が提供するサービスに対し適切なフィーを獲得する「フィー・フォー・サービス」を待ったなしに現実のものにしなければならない。

(4)「フリーライダー」メーカーとの交渉強化

 今回も主要医薬品卸の協力を得て以下のデータを開示する。平成27、28、29年の第1四半期の比較である(表2参照

表2 主要医薬品卸5社における後発医薬品取引上位5メーカーの最終原価率

表2 主要医薬品卸5社における後発医薬品取引上位5メーカーの最終原価率
※画像クリックで拡大表示

 平成28年の薬価改定を挟んで、各医薬品卸の主要取引メーカーの最終原価は全体の傾向として上昇している。薬価が引き下げられたにも関わらずである。

 さらに薬価改定後1年目の仕切価格を見れば、市場実勢価格を省みない仕切価格になっていることも確認できる。

 医薬品卸はこの機能回復のために、速やかに本格的な仕入価格交渉を可能にできる、購買部門、仕入部門のさらなる強化が必要である。仕入交渉を可能にするデータは医薬品卸には十分揃っている。

 日本の薬価基準制度下における薬価の内訳には「流通経費」が含まれていることは周知の事実である。このコスト(流通経費)には、薬価収載時にオーファン・新薬創出加算・長期収載品目等成分の特性には関わらず、すべての医薬品に「平等」に含まれている。

 このコストは、言うまでもなく医薬品卸の収益を助けることで存在していることでは断じてない。「国民皆保険」「ユニバーサルサービス」実現のため、日本全国地方の隅々まで保険薬を偏在なく流通させるための配送コストである。このコストについては、オーファン中心の製薬企業や新薬創出品中心の製薬企業、長期収載品中心の製薬企業に関わらず、安定供給を実現するために、保険薬価をいただくという「権利」を得たすべての製薬企業の「義務」的なコスト負担とも言える。薬価の中から得た収益の一部を流通経費として医薬品卸を通じてコスト負担をする。これは商品のカテゴリーには無関係のコストである。

 しかし、現状として医薬品卸のメーカー別のグロスマージン(以下GMと記す)を分析すると、一部の製薬企業が薬価の中の流通経費を製薬企業に内部留保し、医薬品卸に再配分していないと疑われる低GMの製薬企業が散見される。医薬品卸も企業存立のため、オーファン・新薬中心の一部メーカーからのGM不足を、流通経費以上にGMを負担している企業にさらに利益をお願いしているのが現状である。

 これは、オーファン新薬中心の一部メーカーが薬価の流通経費を内部留保して「タダ乗り」している「薬価へのフリーライダー」であり、オーファン新薬中心メーカーが負担すべきコストを他のメーカーに負担させている「企業間のフリーライダー」とも言えるのではないか。


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