人工知能(AI)の登場で薬剤師の仕事が奪われるのではないかとの議論が活発に行われるようになった。実際、最近では主に医薬品情報業務を中心にAIの導入が進んでいる。病院や保険薬局の業務をめぐる大きな環境変化がこうした懸念を一層高めているという状況もある。
冷静に考えれば、薬剤師業務の全てをAIが代替できるわけではなく、先日開かれた医薬品情報学会でも薬剤師業務とAIの共存という方向性が語られた。必要以上に過剰反応するのではなく、むしろ多忙な業務をいかに効率化できるかという前向きな活用を考えることで、AIと付き合っていく時代が到来すると理解すべきだろう。
医薬品分野で最も難しい作業となるのが多様な情報をAIに学習させることで、添付文書やインタビューフォーム、様々な問い合わせなど、膨大なデータを蓄積しなければせっかくのAIの利点を生かせない。既にAIを導入している医療機関では、DI室への問い合わせ事例をデータベース化する取り組みが広がっており、将来的には全国的な巨大医薬品情報データベースの構築も期待できそうだ。既にシステム開発ベンダーが主導する形で、病院、薬局、製薬企業、医薬品卸などを巻き込んだ連携が構想されており、今後AI活用の流れは加速することはあっても、後退することはないだろう。
AI活用の広がりは、薬剤師業務の見直しに直結する。これまで効率化が進んでいなかった対物業務や膨大な問い合わせ対応などをAIが代替してくれることで、かえって薬剤師がすべき業務に集中できるというメリットは大きい。薬局でも薬剤師の服薬指導を支援するAIシステムの開発が進んでいる。どんな服薬指導を行えばいいのかAIが推奨してくれるというもので、やはり薬歴の記載漏れといった業務効率化につながる。
現場の薬剤師からも「知識が多いから専門家ではなく、いかに付加価値を創造していくかを考えていかなければならない」「AIに奪われて良い仕事は、もともと効率化すべき仕事」などと前向きな発言が出ている。非薬剤師業務の範囲を明確化した厚生労働省の通知が発出されたタイミングもあり、まさに「薬剤師がすべき業務とは何か」という命題と正面から向き合う時期に来ているのは間違いない。
2045年にはAIが人間の脳を超える「シンギュラリティ」に到達すると言われている。しかし、薬剤師をはじめ医療職は人の生命を預かる仕事。患者の病に心を寄せ、一人ひとりに最も適した治療とケアを行うための対人業務が真骨頂である。
それだけに、AIについて“賢く恐れる”ことが大切になってくるだろう。AIをうまく使いこなした先にこそ、薬剤師業務の新たな展開が見えてくるはずだ。