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医療保険財政の国民的議論が急務

2019年09月02日 (月)

 健康保険組合連合会が公表した次期診療報酬改定に向けた政策提言が議論を呼んでいる。国民病と言われる花粉症にターゲットを当て、OTC薬と類似する抗ヒスタミン薬等の医療用医薬品を保険適用から外した場合、全国推計で年間最大約600億円の薬剤費削減効果が見込まれると試算。原則自己負担にすべきとの提言が波紋を広げた。

 その他にも、調剤報酬のあり方、生活習慣病治療薬のフォーミュラリーとリフィル処方の導入検討を要求するなど、ほとんどが医薬品関係の内容となっている点に注目する必要がある。中でも調剤報酬については、レセプトデータの分析から全処方箋の78%に調剤基本料1が算定されているものの、その8割がいわゆる「門前薬局」であったと指摘。さらに、薬剤服用歴管理指導料についても、全処方箋の98%にルーチン的に算定されていると問題提起し、調剤基本料と薬剤服用歴管理指導料の算定要件見直しを迫っている。

 調剤報酬については、これまでも経済財政諮問会議や財務省から改革の必要性が強く訴えられてきたが、小幅な改定にとどまってきた経緯がある。しかし、今回の健保連の提言はデータをもとにした提言であり、例えば薬剤服用歴管理指導料のルーチン的な算定に対して反論できるデータがあるかどうかである。

 もはやエビデンスに基づかない調剤報酬点数は適正化対象となるのは必至で、改革の先送りも限界に来ている。いずれにしても医療保険財政が逼迫する中、今後も一つひとつの診療報酬点数が適切に算定されているか点検され、繰り返しこのような提言が行われていくだろう。

 今回、花粉症治療薬の保険適用外の提言が大きな注目を集めて議論となったが、スイッチOTC化によるセルフメディケーションの推進とセットで議論しなければ意味がないのも事実である。

 日本医師会は受診抑制につながると反対の姿勢だが、医療保険制度の危機が叫ばれる中、確かに花粉症をOTCで治療すると患者の自己負担額は今より高くなり、医療機関への受診は減るかもしれないが、待合室があふれる日常診療を考えれば、ケースによっては医師が率先して患者の受診行動を変えるよう説得することも必要になってきているのではないか。

 もちろん、国民の意識改革も待ったなしとなる。これまでの「病院を受診した方が安い」という意識からセルフメディケーションに移行させていくためには国の役割が重要になってくる。

 最近では、厚生労働省が積極的に「かぜに抗菌薬は効かない」と抗菌薬の適正使用キャンペーンを推進したことにより、一定の成果が出ていると感じる。医療保険の問題はなかなか各方面の利害が絡み合う難しい問題だが、残された時間は少ない。今回の提言をきっかけに国民的な議論の喚起が急がれる。



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