トランプ米大統領が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療を劇的に変え得る薬と主張している抗マラリア薬について、米食品医薬品局(FDA)はこのほど、COVID-19の治療薬として使用するには危険性が高過ぎるとの見解を発表した。
FDAの発表内容は、クロロキンおよびヒドロキシクロロキンをCOVID-19の患者に投与すると、生命を脅かす可能性のある不整脈を引き起こすことがあるというもの。外来患者に対するクロロキンやヒドロキシクロロキンの処方件数が増加していることに関しても、医療従事者と患者の双方がこれらの薬剤に関連するリスクを認識しておく必要があると呼び掛けている。
クロロキンやヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬として長年使われてきた実績があり、後者は関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの治療にも用いられている。COVID-19の感染拡大を受けて実施された基礎的研究から、これらの薬剤に抗ウイルス作用が認められ、その結果を受けてヒトを対象とした臨床試験がブラジルで実施された。同国の熱帯医学財団のMarcus V. G. Lacerda氏らによる研究で、結果は「JAMA Network Open」4月24日オンライン版に掲載された。
COVID-19で入院治療を受けている重症患者を、クロロキンを高用量(600mgを1日2回、10日間)投与する群と、低用量(450mgを1日目は2回、2日目以降は1日1回、4日間)投与する群に二分し、安全性と有効性を検討した。当初は440人の患者登録を予定していたが、高用量群で高い死亡率が認められ、安全性監視委員会の勧告により中止された。中止までに81人が登録され、13日間に高用量群の41人中16人(39%)、低用量群の40人中6人(15%)が死亡した。また500m秒以上のQTc延長が、高用量群の18.9%、低用量群の11.1%に認められた。
米レノックス・ヒル病院の救急医のRobert Glatter氏は、「われわれはパンデミックのさなかにあっても最大の注意を払いながら対処しなくてはならない」と強調。Lacerda氏らの研究によって「全ての疑問が解けたわけではないが、クロロキン高用量投与で心臓障害のリスクが高まることが明らかになった」としている。しかしLacerda氏らの説明によると、基礎研究ではCOVID-19患者に対し抗ウイルス効果を得るには高用量のクロロキンが必要であることが示されているという。
FDAは「COVID-19の治療および予防におけるクロロキンとヒドロキシクロロキンの安全性・有効性は証明されていないが、COVID-19のパンデミックにおける一時的な措置として、これらの薬剤の臨床試験に参加できない入院患者に対して使用を許可している」とニュースリリースで解説。その上で、「両剤は、QT延長や心室頻拍といった不整脈を引き起こす可能性がある」と警告している。
クロロキンとヒドロキシクロロキンによる不整脈のリスクは、抗菌薬のアジスロマイシンなどと併用した場合や心臓や腎臓の疾患がある患者で、特に高まる可能性がある。COVID-19に対するアジスロマイシンの使用はFDAに承認されていないが、一部の患者に使用されているという。
米ロング・アイランド・ジューイッシュ・フォレスト・ヒルズ病院の救急部門長であるTeresa Murray Amato氏は、COVID-19パンデミックの緊急性の高さを背景に、安全性や有効性が証明されていない治療をやみくもに試みようとする動きがあると指摘。「クロロキンやヒドロキシクロロキンに関しては、さらなる研究で検討する余地があるが、今回のブラジルの研究結果はCOVID-19治療のための高用量クロロキンの使用回避を医師に促すものといえそうだ」と話している。(HealthDay News 2020年4月24日)
(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2765499
Editorial
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2765500