第53回日本薬剤師会学術大会
感染対策や服薬指導、工夫重ねる
新型コロナウイルスの感染拡大が勢いを増す中、2月に集団感染が判明したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では厚生労働省の要請を受けて派遣された薬剤師が乗客の医薬品不足を解消するために奔走。その後、5月から北海道薬剤師会の会営薬局では、無症状・軽症患者向けの宿泊療養施設として、北海道が借り上げた札幌市内のホテルに薬を届ける取り組みを開始した。帯広市のまつもと薬局では、感染対策を講じながら近隣病院の発熱外来を受診した患者の処方箋に対応しており、コロナ禍においても地域で必要な医薬品を供給し続ける薬剤師が活躍する姿を見せている。
ホテル療養の処方箋を応需‐北海道薬会営薬局
無症状・軽症患者の受け入れを始めたのは札幌市内の「アパホテル&リゾート札幌」。約670人の収容が可能で、5月に北海道が一棟借り上げた。臨時の医療施設としての設備も整えている。
医師が月曜から土曜日の9時から16時まで、看護師は24時間体制で常駐し、患者が急変した場合、迅速に病院に搬送できるようにしている。
北海道薬は5月25日に北海道と感染症対策で連携・協力する協定を締結した。それに伴い、ホテル内に設置された臨時医療施設から交付されるFAX処方箋について、同薬剤師会の会営薬局が対応することとなった。
きっかけは道庁からの要請だった。ホテル内の宿泊療養患者の急変時に対応するため、北海道薬に「処方箋を出せないか」との打診があった。
対応に当たった会営薬局では、主に薬剤の配送、電話による服薬指導を行っており、9月9日時点で39枚の処方箋を応需している。
実際の流れとしては、まず送られてきたFAX処方箋に基づいて調剤を行い、車でホテルに向かう。ホテルは一般人が出入りできないよう施錠されているため、玄関前に着いたら携帯電話で連絡を取り入口を開けてもらう。
臨時医療施設の事務所で看護師と処方内容を確認し合い、チェック欄にサインしてもらったら、ホテルの内線で医薬品が患者の手に渡る前に服薬指導を済ませてしまう。感染防止の観点から、医薬品は各フロアにある食事の受け取り場所に置かれることになっており、タイムラグが生じてしまうためだ。
ホテルからの処方箋は、事業がスタートした翌日から想定を超える頻度で送られてきたという。当時、感染防止の観点から、薬局に勤務する薬剤師を限定していたこともあり、「毎回、届けに行くのは難しい」と考えた会営薬局の管理薬剤師である松本康太氏は、ホテル内の薬剤リストを整理。緊急時以外は、ホテルに常駐している道庁の職員が薬剤を受け取りに来るようにしてもらった。その場合の服薬指導は、ホテルの看護師に医薬品が届けられた後に電話で行うようにした。
また、道庁に対してホテル内の備蓄薬の拡充も要望した。現在は「注射も含め、ある程度薬剤が揃っていて院内処方で対応できる状態」だという。
北海道薬の山田武志常務理事は、「5月に道庁から処方箋対応の依頼を受けた時は、秋以降に想定される第2波、第3波に備えるために体制を整えておきたいという意味合いが強かったが、早々に稼働することになった」と話す。
6~7月はホテルで療養する患者は少なかったが、8月に入ってからは徐々に増え始め、50人にまで達した。それに伴いFAX処方箋も増えたものの、8月下旬から患者数が20~30人で推移するなど、「やや落ち着いてきた」(松本氏)ことから、ホテルに医薬品を届ける頻度も減ってきたようだ。
近隣施設にエタノール提供
北海道薬では、6月に手指消毒用エタノールの無償提供も行った。需給が逼迫し、臨時的・特例的な対応として高濃度エタノールを手指消毒用エタノールの代替品として用いることができるようになったことを受け、国から道を通じて北海道薬に18L入り一斗缶が1300個ほど無償で送付された。薬局で希釈・分注して地域の医療機関へ提供するためだ。
道内の1281薬局が希釈作業を行い、6月4日から周辺地域の医療機関を優先としつつ、高齢者施設や教育施設などに対して消毒用エタノールを無償提供した。特に教育施設からは、小中学校の再開時期とも重なったため、多くの問い合わせがあったという。
発熱外来の処方箋に対応‐帯広市・まつもと薬局
帯広市のまつもと薬局では、薬剤師が感染対策を講じながら隣接する帯広協会病院の発熱外来を受診した患者の処方箋に対応している。
同院から発熱外来を受診した患者が処方箋を持って行く旨の電話連絡が来て、FAX処方箋が送られてくる。患者に感染の可能性があるため、薬局の駐車場で車内待機してもらうか、店舗外のベンチで待機してもらい、薬剤師が保険証や服薬状況、薬剤服用歴などの先確認を行う。調剤後は、外で待機している患者のもとで服薬指導を行い、会計も済ませる。こうした処方箋を週3~4枚受け付けているという。
地域住民の安心を守る
まつもと薬局の松本健春氏は、「感染リスクを最小限にするため、最初から最後まで患者さんに関わる薬剤師を一人に限定している。感染対策を講じながらの対応は手間もコストもかかるが、地域住民の安心のためには必要なこと」と話す。
一方、新型コロナウイルス感染症は実務実習にも影響を及ぼした。地区や期によっては中断や大幅なスケジュール変更を余儀なくされたところもあるようだ。同薬局では、実務実習が「医療現場で働く薬剤師の姿を見せる良い機会になる」とし、積極的に学生を受け入れている。
この日、薬局実習を行っていた北海道医療大学薬学部の梶尾匠さんは服薬指導を体験。飛沫感染防止用のアクリル板越しの服薬指導となったが、やりにくさはあまり感じなかったという。
梶尾さんは「患者がマスクをしているため、目元の表情だけで説明を十分に理解してもらえているか、他に聞きたいことはないかなどを判断しなければならず、その辺が難しかった」と感想を話していた。