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消費者へ薬のリスク啓蒙を

2009年04月17日 (金)

 「医薬品ネット販売」の賛否をめぐっての論争が依然として続いており、対面販売原則のもとでの新制度推進派と、ネット販売業者らの規制撤廃派は,従来からの意見を主張するだけで、議論は平行線のままだ。

 現在の医薬品販売体制のあり方をめぐる議論は、2003年8月のドン・キホーテのテレビ電話による夜間医薬品販売に端を発する。その後、05年に「医薬品販売制度改正検討部会」がスタート。06年3月に「薬事法の一部を改正する法律案」が国会に提出され、同年6月に改正法が成立・公布された。

 08年2月から「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会」が8回開催され、通信販売事業団体からのヒアリングも実施された。7月には検討会の報告書、それを受けて9月に改正法の政省令案が示された。

 しかし、11月には規制改革会議が「インターネットによる医薬品販売の規制撤廃」を要望する見解を発表し,厚生労働省にその対応を求めた。12月に厚労省は「利便性よりも安全性を重視すべき」との回答を示し、今年2月に「ネット販売は第3類薬に限る」との省令が公布された。

 その後、舛添要一厚生労働大臣が設置した「医薬品販売制度の円滑施行に関する検討会」で、ネット販売の是非が論議され、現在に至っている。

 だが、医薬品の安全性のインフラ整備を終えた上での利便性の追求は意義があろうが、安全性を無視した利便性だけの議論の展開は的を得たものかどうか甚だ疑問だ。

 楽天の三木谷浩史社長らが主張する「薬局・店舗などで医薬品の購入を困難とする山間へき地や離島などで暮らす人への対応」は、ネット業者ではなく、行政や地域の薬剤師会が別途解決すべき問題であろう。一部のイレギュラーな実例への対応のために、大勢の人が危険に晒されるようでは間尺に合わない。

 さらに、三木谷社長がネット販売が不可欠になるとする「体が不自由で薬を買いに行けない人」ほど、薬の専門家の説明が必要ではないのか。一般薬として販売されたサリドマイドやスモンが、多くの犠牲者を出したことを忘れてはならない。

 とはいえ将来的には、医薬品販売もネットの活用が避けて通れなくなるのもまた事実だ。そのためにはまず、「先進国の中でも、特に薬のリスクを理解していない」と世界各国から指摘を受けているわが国では,まず一般消費者を対象とした「薬のリスク教育」が必要不可欠となる。

 楽天がネット上で展開する「一般薬の通信販売継続を求める署名」が100万人を突破したと聞くが、その数字は逆に「いかに多くの人が薬のリスクを理解していない」かを物語る証でもある。

 海外で横行するネットによるニセ薬販売の問題も含めて、現在の未熟なネットビジネスの中では何が起こっても不思議ではない。医薬品のネット販売の是非を論ずるよりも、薬の専門家やネット業者が一体となっての「薬のリスクに対する消費者教育」を始めることの方が現実的だと考える。

 また、消費者教育が進んで本格的な医薬品のネット販売が緒に就く前に、販売の場を提供するネット業者の責務を明らかにしておく必要があるだろう。

 東京証券取引所が、市場の混乱を避けるために一定の基準を設けて上場する会社を限定しているように、医薬品を取り扱うに当たっては,ネット業者も,軒先を貸す医薬品業者や製品を厳しく選定する努力を怠ってはならない。



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