公衆衛生の普及、優れた抗生物質の開発などによって、様々な感染症が制圧されてはきたが、新たな薬剤耐性菌による院内感染事例の多発や、今後も予想される新型ウイルスの出現も考えると、日ごろからの感染症対策は医療施設にとって重要な課題だ。
現代の感染症対策は、人々の交流や交通機関の発達も相まって、単に個人あるいは一医療施設の問題ではなく、地域や社会全体で対策が必要といえる。医療機関では、感染対策は全ての施設が対象といえるが、最近では多職種が連携しての感染制御チーム(ICT)が結成され、その中で薬剤師が、医師・看護師・臨床検査技師などと協働で病棟全体の衛生管理にも積極的に関与し、薬剤師ならではの専門性を発揮しているケースも少なくない。
今月、福岡で開かれた日本環境感染学会総会では、洗浄・消毒・滅菌等をめぐる最新情報と共に、ICTによる感染対策活動の報告も目立ったが、医療施設内のスタッフといえども、必ずしも日常業務の中で完全な手洗い方法を実施しているとは限らないようで、日ごろから適切な手指衛生を繰り返し指導・啓発していく必要性も指摘された。
手指衛生は感染予防の基本とされているが、忙しい日常業務の中では、とかく手洗いが疎かになりがち。正しい手指衛生の遵守は医療関係者に限らず、一般生活者にとっても重要で、この部分に店頭提案を通じてアプローチできる薬局・ドラッグストアの役割は、ある意味で非常に重要ではないだろうか。
現在、インフルエンザが全国的に流行している。インフルエンザは飛沫感染のみならず接触感染対策が重要で、咳エチケットの遵守やマスク着用、手洗いをはじめとした予防の徹底が望まれる。さらに、冬場ではノロウイルス胃腸炎の集団発生も懸念される。ノロウイルスは極めて感染力が強く、家庭内でも正しい手洗い方法、迅速かつ適切な嘔吐物や糞便処理、清掃・消毒の徹底といった、十分な感染対策を心がけたい。
マーケティング会社のトレンダーズ(東京渋谷区)が行った意識調査では、「38度以下だとインフルエンザには感染していない」「熱が下がると他人に感染しない」など、20歳以上といえども、インフルエンザに関する誤った認識を持っている人が少なくなかったという。一方で、インフルエンザのより有効な対策方法は、約9割の人が「知りたい」と回答している。
最近では、多くの人がTVやネットで情報を入手しているが、氾濫する情報を正しく理解し、実践できていないことも多い。医薬品から生活用品の購入まで、身近に関わる機会の多い薬局・ドラッグストアには、感染管理に重要なマスクや殺菌消毒剤といった医療衛生用品類の安定供給はもちろんのこと、各種感染症予防・対策について、一歩踏み込んだ積極的な啓発も望みたい。