
「医療用医薬品迅速・安定供給部会」の新設が2025年06月04日に報告された
はじめに
薬学生の皆さん、そして医薬品業界の新入社員の皆さん、「安定確保医薬品」という言葉を耳にしたことはありますか?この言葉の背後にある「医薬品の安定供給」というテーマは、今や皆さんの日々の業務や、将来のキャリアを考える上で、避けて通れない重要なキーワードとなっています。
実は今、日本の医療を支える重要な医薬品の供給が、様々なリスクにさらされています。原薬の海外依存、製造トラブル、そして記憶に新しいコロナ禍での医薬品不足。これらの課題に対応するため、厚生労働省が打ち出したのが「安定確保医薬品」という新たな枠組みです。
このページでは、安定確保医薬品という制度の定義から、その背景にある根本原因、そしてこれから皆さんが現場でどのように向き合っていくべきかまで、網羅的に解説していきます。
安定確保医薬品の基本を理解する
そもそも安定確保医薬品とは?
安定確保医薬品は、厚生労働省が定める重要な医薬品の分類です。医療用医薬品の中でも「医療現場において必要不可欠で」「広く使用される薬」であり、供給の安定確保が特に求められる薬品を指します。厚生労働省が2021年に正式に指定した506成分の医療用医薬品が、この安定確保医薬品リストに含まれています。リストに掲載された医薬品については、製造販売業者に安定供給の協力が求められます。
「安定確保医薬品」制度が生まれた背景
この制度が整備されるに至った背景には、過去に実際に起こった深刻な医薬品供給問題があります。2019年には抗菌薬「セファゾリン」の安定的な供給が滞り、医療の円滑な提供に深刻な影響を及ぼす事案が発生しました。
この問題は、特定の国内メーカーの製造トラブルだけでなく、海外の原薬製造工場における問題に起因するものでした。この事案をきっかけに、医薬品のグローバルなサプライチェーンが持つ脆弱性が浮き彫りとなり、国民の間で医薬品の供給不安に対する意識が急激に高まりました。
医療現場で重要な医薬品が突然欠品すると、医療の提供に支障をきたす恐れがあるため、一層の安定確保策が求められています。
【最新情報】安定確保医薬品、762成分に拡大
2025年10月27日の厚生科学審議会 医療用医薬品迅速・安定供給部会で、パブリックコメントを踏まえた安定確保医薬品の見直し案が了承されました。これは現行の安定確保医薬品リスト(506成分)から約1.5倍に当たる762成分へ拡大するもので、4年ぶりの大規模な改定となります。
安定確保医薬品見直しの背景とこれまでの経緯
安定確保医薬品の選定から約4年が経ち、2025年(令和7年)5月には薬機法などの法律が改正され、「安定確保医薬品」は新たに「供給確保医薬品」として法律に位置づけられました。さらに、その中でも特に重要なものは「重要供給確保医薬品」として分類されることになりました。
この制度の見直しは、専門家による安定確保会議で全体の方針を話し合ったうえで、日本医学会の協力のもと、医療や薬学の専門家が集まるワーキンググループで具体的な案が作られました。2025年8月に、厚労省の医療用医薬品迅速・安定供給部会で審議され、さらに国民からの意見を募る「パブリックコメント」も実施されました。
こうした流れを経て、2025年10月27日に新しいリストが正式に了承され、安定確保医薬品は現行506成分から762成分に拡大されました。
●2025年8月27日:第1回部会(見直し原案の提示)
現行506成分に対し+253成分の計759成分とする見直し案を提示。ワクチン13成分・血液製剤1成分を新規追加し、カテゴリーA(最優先)は現行21成分から36成分に増加。
●2025年10月27日:第2回部会(最終案の了承)
パブリックコメント(8月27日~9月26日に実施、意見34件)を経て原案を修正。計762成分に拡大し、主要変更点(後述)を反映した最終案を了承。この最終リストは2025年11月上旬にも官報告示される見通しです。
最終リストの概要(759成分→762成分へ)
27日に了承されたリストは、合計762成分で構成されています。このうち「重要供給確保医薬品」(優先度の高いカテゴリーAおよびBに属するもの)は75成分です。「供給確保医薬品(全ての安定確保医薬品が該当)」全体の成分数は、8月提示案の759成分から3成分増加しました。継続指定される成分は451成分(現行506成分から55成分減)で、新規追加成分は311成分となり、前回(2021年)選定時には対象外だったワクチン・血液製剤類を含む大幅な拡充が行われています。カテゴリー別の成分数は以下の通りです。
| 区分 | 現行(2021年) | 2025年8月案 | 2025年10月最終(内訳) |
|---|---|---|---|
| A群(最優先) | 21成分 | 36成分 | 35成分(新規14、継続21) |
| B群(優先) | 29成分 | 39成分 | 40成分(新規20、継続20) |
| C群(安定確保) | 456成分 | 684成分 | 687成分(新規278、継続409) |
| 総計(A+B+C) | 506成分 | 759成分 | 762成分(新規311、継続451) |
| 重要(A+B) | 50成分 | 75成分 | 75成分(新規34、継続41) |
■資料2:供給確保医薬品の選定について( 安定確保医薬品の見直しについて)
■第2回 厚生科学審議会医療用医薬品迅速・安定供給部会 資料
選定の基準
安定確保医薬品の選定基準は、まず治療対象の疾患が重篤であること、代替薬や治療法が存在しないことが挙げられます。さらに、多数の患者が服用しているか、製造工程やサプライチェーンなどの供給体制に不安がないかという点も評価され、これらに基づき医薬品がカテゴリA~Cに分類されています。
安定確保医薬品の選定には、以下の4つの評価軸が用いられています:
1. 対象疾患の重篤性
致死的な疾病や障害につながる疾患、または指定難病の治療に用いられる医薬品であること。
2. 代替薬・代替療法の有無
代替薬が存在しない、または利用が困難な場合、あるいは同種同効薬があっても副作用などの理由で代替が難しい場合。
3. 患者数・使用頻度
推定使用患者数が多い、または同一薬効の医薬品の中で高いシェアを占めていること。
4. 製造の特殊性・サプライチェーンの脆弱性
原薬・原料の供給企業が世界的に限られている、または製剤化に特別な技術が必要とされる医薬品であること。
国民の生命を守るため、代替薬が限られているか存在せず、重篤な疾患に対して使用される医薬品や、多くの患者が利用している医薬品、さらには製造・供給体制が安定正が、選定基準として重視されています。
■資料1 安定確保医薬品の見直しについて(厚生労働省 令和6年11月18日)
どんな薬が対象になっているのか
安定確保医薬品は、その医療上の重要性や供給確保の難易度に応じて、以下の3つのカテゴリーに分類されています。2025年8月現在、合計506成分が指定されています。
初選定から4年が経過したため、現在品目とカテゴリーの見直しに向けて議論されています。
カテゴリA: 「最も優先して取組を行う安定確保医薬品」(21成分)
これらは「代替薬がない」または「代替が極めて困難」な医薬品です。
具体例:
・ノルアドレナリン:ショック時の血圧維持に必須
・ヘパリン:血液透析や心臓手術で欠かせない抗凝固薬
・プロポフォール:全身麻酔の導入・維持に使用
カテゴリB: 「優先して取組を行う安定確保医薬品」(29成分)
代替薬はあるものの、切り替えにリスクを伴う医薬品群です。
具体例:
・インスリン製剤:糖尿病患者の生命維持に必須
・アドレナリン:アナフィラキシーショックの第一選択薬
カテゴリC: 「安定確保医薬品」(456成分)
使用頻度が高く、安定供給が求められる医薬品です。多くの慢性疾患治療薬が含まれます。
【検索・確認方法】
厚生労働省の公式サイトで、最新の品目一覧を確認できます。また、PMDAのサイトでも関連情報が検索可能です。
■安定確保医薬品及びカテゴリ設定(厚生労働省 令和3年10月1日修正版)
安定確保医薬品の重要性
医療現場での役割
【治療継続への不可欠性】
これらの医薬品は、生命維持、手術時の感染予防、全身麻酔、重篤な疾患の治療において中心的な役割を担います。たとえば、プロポフォールは手術や集中治療での鎮静に、ワルファリンカリウムは抗凝固療法に利用され、供給途絶が直ちに患者の治療を脅かす可能性があります
患者への影響
【治療中断と健康リスクの増大】
必要な医薬品が欠品すると、治療計画が中断され、生命に関わるリスクが増加します。代替薬が存在しない場合、患者には不測の副作用や治療効果の低下が生じる可能性があり、また場合によっては患者の経済的負担も増大することがあります
社会的背景
【公衆衛生と医療体制の基盤として】
医薬品の安定供給は、病院、薬局、さらには医療従事者の業務負担の軽減や、災害・パンデミック時においても迅速な医療提供を実現するために不可欠です。製造拠点が海外に偏る現状では、供給ラインのリスク分散や国内生産の強化が求められています
まとめ
安定確保医薬品は、国民の生命を守るために国が定めた重要な医薬品です。その供給問題は、原薬の海外依存、薬価改定による不採算品の増加、一部メーカーの品質管理問題など、複数の要因が複雑に絡み合って生じています。
国は薬機法改正を含めた対策を講じていますが、最終的に医療の安定を守るのは、現場で働く一人ひとりです。医薬品の供給問題は、確かに困難な課題です。しかし、それは同時に、皆さんが医療の最前線で真のプロフェッショナルとして成長し、社会に貢献するための大きなチャンスでもあります。この知識を武器に、未来の医療を支える重要な担い手として、一歩を踏み出してください。












