日本薬剤師会副会長 石井甲一

2016年度の処方箋受け取り率は71.7%、受け取り枚数は約8億枚となり、日本薬剤師会が「医薬分業推進対策本部」(いわゆる分対)を設置した平成元年(1989年)当時に目標としていた数字が達成できたということになります。しかし、いわゆる医薬分業に対する逆風は弱まるどころか、ますます強くなった1年でした。
偽造医薬品の流通問題
わが国の医薬品の流通は、極めて適正な体制のもとで行われており、海外で問題となっている偽造医薬品の流通事例は極めて少なく、海外からも称賛されていました。
しかしながら1月、偽造医薬品の流通問題が一般紙等に報道されました。容器は正規品であり、流通過程のどこかで中身をすり替えられ、多くの卸業者を経由して保険薬局、そして患者のもとにまで届いてしまったという大事件となりました。卸業者にも保険薬局にも管理薬剤師が存在しているにもかかわらず、患者からの訴えで事件が判明したことは、誠に残念であったと考えます。
不正請求問題
4月、業界紙に同一グループの保険薬局が共謀しての保険上の不正請求事案が報じられ、事実であることが判明しました。調剤を行っていないにもかかわらず、保険請求をしていたという、医療提供施設である保険薬局としてあってはならない行為でした。このような付け替え請求事例は8月にも別の保険薬局において発覚し、自主点検が行われ、回答のあった保険薬局においては、同様の不正事案はありませんでした。
しかし、その後、他の保険薬局における同様の不正請求事案が発覚したため、現在、最初の調査で未回答であった薬局を含め、改めて再確認の点検を都道府県薬剤師会に対し依頼しています。
このような事案の発生は、保険調剤に対する信頼を失うのみならず、薬局・薬剤師に求められる医療人としての倫理を自ら放棄する行為と捉えなければならないと考えます。
薬剤師倫理規定の見直し
日薬では16年4月より「薬剤師倫理規定の見直しに関する特別委員会」を設置して、検討を重ねてきています。検討の最中に不正請求事案が発生してしまったわけで、そのため検討を急ぎ、本年中に委員会としての結論を得ることにしています。
現在の薬剤師倫理規定は1997年(平成9年)に全面改定されたもので、10カ条から構成されています。その後の薬剤師を取り巻く環境の変化を反映することとし、薬剤師倫理規定という言葉も「薬剤師行動規範」という分かりやすい言葉に改め、15項目から構成されることになる予定です。また、解説を加えることとしており、より分かりやすいものにしたいと考えています。
敷地内薬局の動向
昨年10月から規制緩和された保険薬局の立地場所ですが、公的医療機関を中心に、敷地内への保険薬局の誘致が全国的に行われています。独立性が担保されているということで許可されているとはいえ、保険医療上適切でない連携が起こるのではないかと心配しています。医薬分業の本旨が損なわれることがないようフォローしていかなければならないと考えています。
第50回日薬学術大会
日薬にとって暗い社会状況の中で、第50回という節目の学術大会が東京で開催されました。開会式では急遽駆けつけていただいた安倍総理、そして加藤厚生労働大臣からお祝いのごあいさつをいただき、大会に華を添えていただきました。また、特別記念講演として15年ノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生より大変興味深いお話を伺うことができました。参加者は1万3000人を上回り、成功裏に大会が終了しました。
18年度診療報酬・調剤報酬の改定と薬価改定
日薬にとって厳しい1年でありましたが、医療費改定をめぐっても、経済財政諮問会議、財政制度等審議会、さらには行政改革推進会議による秋のレビュー等から調剤報酬に対する厳しい指摘がなされました。
以下、改定内容を記載します。
「12月18日の厚生労働大臣と財務大臣による大臣折衝の結果、診療報酬本体+0.55%、調剤+0.19%、医科:調剤=1.0:0.3という公平な引き上げ改定となったことは評価できるものと思います。ただし、薬価の引き下げおよび前回と同様の通常改定とは別の引き下げ改定がなされることとなり、保険薬局の経営にとって厳しい改定であると認識しています」
今後の展望
いわゆる医薬分業の進展と共に、調剤医療費の伸びはさらに続くことになり、高齢化による医療費の伸びを一定程度に抑えようとする政策の中で、健康サポート機能を有する「かかりつけ薬剤師・薬局」のメリットを国民に実感していただくことが必須だと考えます。そのための広報活動の活性化のみならず、現場での業務を通じて訴えていくことが大事であります。厳しい状況の中で、全国の薬剤師が前向きに業務を行うことができるよう、日薬としての活動をしっかり展開していきたいと考えています。