東北大学学際科学フロンティア研究所助教 佐藤 伸一

チロシン残基は、リン酸化や硫酸化などの翻訳後修飾の足場、生体内一電子移動の媒介、タンパク質間相互作用や核酸-タンパク質相互作用における分子認識など多くの生命現象に重要な機能を担うアミノ酸残基である。また、疎水性アミノ酸残基であり、タンパク質表面には限定的に露出するという特徴を持つ。よって、チロシン残基に対する選択的化学修飾法の開発は生命現象の解明、タンパク質部位特異的修飾の観点から注目されている。一方で、これまでに開発されているチロシン残基修飾法の多くは[1]過激な酸化条件を必要とする[2]低い残基選択性や反応効率――などの課題を残していた。
私たちは独自の着眼点から、ラジカル種を用いたチロシン残基修飾法を開発した。適切な酸化電位で効率的にチロシン残基と共有結合を形成する修飾剤の開発、温和な反応条件で機能する一電子酸化触媒の利用を通じて、一連のチロシン残基化学修飾法を開発してきた。
私たちのラジカル反応によるチロシン残基修飾法の特徴として、短寿命の高反応性化学種を発生させる点が挙げられる。生理的環境下における一電子移動距離の制限や生じるラジカル種の短寿命性を考慮すると、チロシン残基の修飾反応は触媒分子周辺のナノメートルスケールの局所空間で完結し、その局所空間に存在するタンパク質が瞬間的かつ選択的に修飾できると考え、研究を展開した。
この概念と触媒を反応系中や細胞内の特定座標に配置させる技術を組み合わせることで、任意のタイミングで触媒分子近傍に存在している(解析対象と相互作用している)タンパク質を選択的に修飾することができる。

これまでに、タンパク質混在系におけるリガンド結合タンパク質の同定、アフィニティー担体表面での一過性のリガンド結合タンパク質の解析、RNA結合タンパク質の網羅解析、酸化ストレスのホットスポット同定に成功した。
今後も、独自のタンパク質修飾法開発を軸足に置き、生命機能の解明や創薬に貢献する研究に邁進していきたい。