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【日本薬学会第141年会】<創薬科学賞受賞研究>AMPA型グルタミン酸受容体拮抗剤ペランパネルの創薬研究

2021年03月19日 (金)

長戸哲、花田敬久、上野貢嗣、上野正孝、竹中理(エーザイ)

フィコンパ

 グルタミン酸ナトリウムが昆布のうまみ成分であることは、明治時代に池田菊苗博士により発見された。また、1950年代にグルタミン酸ナトリウムがイヌの大脳皮質に強い興奮性作用を有することを慶応大学医学部の林髞教授が報告し、神経伝達物質である可能性を示した。

 その後の受容体に関する研究においても、日本人はグルタミン酸関連の研究に大きな貢献を果たしてきた。現在では、グルタミン酸は脳内における主要な興奮性神経伝達物質として広く認知されており、様々な脳機能の発現にその受容体が重要な役割を持つことが示されている。

 ペランパネルの標的であるAMPA型グルタミン酸受容体は、早い興奮性神経伝達を担い、正常な脳活動の多くに関与している。一方で、過剰なグルタミン酸受容体の興奮は神経の過活動を引き起こし、正常な神経活動の破綻を伴う様々な症候をもたらすと考えられている。そのため、創薬の重要な標的分子として様々な創薬研究がなされてきた。

図

 最初に、AMPA型受容体阻害剤の創薬研究は、脳血管障害急性期の治療剤候補として始まった。しかし、これらの創薬研究は薬理作用の延長としての強い中枢抑制作用、あるいは体内動態上の特性によって成功しなかった。その後、いくつかのAMPA受容体拮抗剤で、てんかん、片頭痛、パーキンソン病等で複数の治験が実施され、有効性を示唆する結果も得られたが、いずれも承認申請に至らなかった。

 われわれは、様々なタイプのグルタミン酸受容体拮抗剤の創薬研究の経験から、既存のAMPA受容体拮抗剤は脳内移行性が極めて低い、あるいは血中半減期が短く、薬物相互作用を引き起こす可能性があることが問題点と分かっていた。

 それら課題を克服するため、活性と体内動態上の特性のバランスの取れた新たな構造取得を目指してハイスループットスクリーニングを実施し、非競合型のAMPA型受容体拮抗剤の構造を得た。その構造をもとに、当初は脳血管障害急性期の神経細胞保護剤の創出を目指し、注射剤に適した化合物の探索を行ったが、途中で慢性疾患への適用を目指し経口剤開発へと方針変更を行った。

 この方針転換により、化合物の合成展開の余地が増えた結果、脳内移行性が高く、代謝的に安定でバイオアベイラビリティが高く、薬物相互作用を引き起こす可能性が低い化合物ペランパネルを得た。

 ペランパネルは、非臨床の複数のけいれんモデルで高い有効性を示した。臨床第I相試験では血中動態の確認とめまい、眠気等の中枢抑制作用の発現、それらに対するトレランスの発現有無が関心事であった。ペランパネルの血中半減期は、非臨床試験による予測通り約70時間と長く、連投で緩徐に血中濃度が上昇することから、トレランス誘導に向いた薬剤であることが分かった。

 また、中枢抑制作用を客観的、主観的指標を用いて確認した結果、血中濃度依存的に中枢抑制作用は発現するが、連投時には比較的早期からトレランスが発現することが確認された。

 これらの知見に基づき、臨床第II相試験以降の投与方法が検討された。中枢性の副作用を回避するため、最も血中濃度が高い時間帯が睡眠中となるよう就寝前投与とした。

 また、トレランス発現を有効に活用するため2mgからの投与とし、忍容性の確保と治験期間とのバランスの観点から2mgずつ1週間ごとの漸増投与とした。

 臨床第II相試験において、てんかんでのProof of Conceptが達成され、2012年に欧米で、16年に日本で焦点性てんかんでの併用療法の適応を取得した。続いて、全般てんかん強直間代発作併用療法に対する適応を15年に欧米、16年に日本で取得している。

 現在では、焦点てんかんでの単剤療法、小児適応も取得しており、難治てんかんのレノックス・ガストー症候群の治験も実施中である。

 てんかんは、興奮性と抑制性のバランスが興奮性に傾き、興奮性神経が過剰に同期発火することで発作が発生するというのが、古くからの病態仮説である。興味深いことに、てんかんに対する治療薬は20種以上存在しており、様々な作用機序を示すが、興奮性後シナプスに直接作用する薬剤は存在しなかった。

 発作発生の最終段階の過剰な神経興奮の同期化を抑制するには、後シナプスの興奮性抑制に勝る作用機序はない。グルタミン酸受容体拮抗剤が治療薬のレパートリーに加わったことにより、後シナプスの興奮性制御という新たな発作コントロールの選択肢が加わった。

 ペランパネルの創薬研究は、AMPA型受容体という脳機能維持に重要な標的を抑制するため、副作用軽減のために最適な性質を有する新規化合物取得によって成し得たものである。

 今後、多くのてんかん患者の発作コントロールに広く活用され続けることを願っている。



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