2023年度薬価改定に関する薬価算定方式の見直し内容が決まった。診療報酬改定のない年に当たる中間年改定で平均乖離率7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目が対象となる。実施の是非を含め検討し、実施するのであれば平均乖離率の1倍超の品目を対象とするよう要望していた製薬業界には厳しい改定となった。
21年度改定では対象範囲が平均乖離率7.6%の0.625倍(乖離率5.0%)とされ、製薬業界に甚大な影響をもたらした。前回中間年改定の結果を踏襲せずにゼロベースで検討するとしていた23年度改定だが、またしても平均乖離率の0.625倍で決着した意味は重い。中間年改定は「平均乖離率の0.625倍」という共通認識が形成されてしまった。
一方で、新薬創出等加算の加算額を増額する措置や、急激な原材料費の高騰などで不採算品となった品目について全品を対象に不採算品再算定を行う臨時・特例的ルールが敷かれた。前回の中間年改定では薬剤費ベースで4300億円削減したのに対して、今回は3100億円と削減幅を1200億円圧縮するなど一定の配慮は行われた。
加藤勝信厚生労働相は、「国民負担軽減とイノベーションの推進のバランスで決定した。特例措置を設けることとした。薬価の維持しかなかった品目の引き上げも出て、メリハリを利かせた見直しを行った」と胸を張った。
しかし、平均乖離率0.625倍を超える品目を改定のベースとし、問題があれば特例的なルールでイノベーションや安定供給に対応するという基本的な考え方では、製薬企業にとって予見性が低く、投資判断が難しくなる。日本製薬団体連合会は「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針(4大臣合意)の趣旨から大きく逸脱したものであり、誠に遺憾」との声明を発表した。
社会保障の持続性を確保するのはもちろん重要だが、製薬産業を育成するというビジョンがない。このままでは国内産業が空洞化した半導体業界と同じ道を歩むことになるだろう。
薬価制度の大改革が必要だ。24年度薬価制度改革は、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」での議論も踏まえ、検討が行われる予定である。革新的な医薬品導入、医薬品の安定供給、薬価差、総薬剤費のあり方などが今後の検討の論点とされている。今年度末の取りまとめに向け議論は佳境に入っている。
特に薬価差は、薬価の改定頻度に関係なく必然的に生じる構造的な問題があり、解決策を示さなければならない。世界の医薬品市場は年平均成長率5.1%増、日本は0.5%減とマイナス成長だ。有識者検討会は、市場が縮小する負の循環に終止符を打つ最後のチャンスだ。改革ができなければ厳しい未来が待っている。