薬系大学を取り巻く環境は厳しい。薬学部増による競争激化に少子化の進行が加わり、入学者の確保に苦労する私立薬系大学は少なくない。引き続き学生が集まる人気の大学とそうでない大学の2極化はさらに進むだろう。
文部科学省が発表する年度別の定員充足率を見ると、苦境に喘ぐ薬系大学の姿が浮き彫りになる。入学定員に対してどれだけの学生が入学したのかを示す定員充足率が90%に到達しなかった私立薬系大学の数は、2023年度は60大学中27大学もあった。70%以上90%未満は13大学、50%以上70%未満は7大学、50%未満の大学は7大学だった。定員割れの大学の割合は10年前から右肩上がりで高まっており、今後その傾向は強まる見込みだ。
定員充足率が70%未満になると大学経営上の厳しさが増し、50%を下回ると大学のイメージダウンにもつながりかねない。これまで各薬系大学は定員削減等で対応してきたが、定員を2~3割程度減らしても定員を充足できず、ジリ貧状態が続くことが多いようだ。
苦戦が続く薬系大学にとって、思い切った打開策が求められる段階に来たのかもしれない。その一例として、武庫川女子大学薬学部は来年度の入学生から、6年制薬学科定員を従来の210人から105人へと半分に減らす大胆な措置に踏み切る。近年の定員割れへの対策に加え、低学年次の有償制インターンシップや3年次の病院でのチーム医療体験など、新たな教育プログラムを多くの学生に履修してもらうには、少人数での教育体制が必要と判断した。
薬学部は基本的に改革に取り組みにくい学部だ。教える内容の大部分は、文部科学省の薬学教育モデル・コア・カリキュラムで規定され、自由度が小さい。教員は、基礎や臨床など様々な領域を専門としており、薬学部の目標や理念を全体として共有しづらい。長年続いてきた私立大学の薬学部新設は、大学経営上の理由で決定されることが多く、一律的な教育体系になりやすい。
しかし、現状のままでは厳しいことが、定員割れという形で明確になってきた。ピンチは反面チャンスにもなり得る。危機感を薬学部全体で共有することで、改革に足を踏み出しやすくなる。
具体的には、▽臨床系教育をさらに拡充する▽製薬企業や病院、薬局など学外の組織と連携した教育や研究を推進する▽卒前後の地域臨床実習や研修に取り組む――など様々な方向性があるだろう。少子化の進行は止まらない。改革を実行するなら早ければ早いほど良いのは明白だ。
競争の激化は、各薬系大学の創意工夫を引き出し、薬学教育の質の向上につながる可能性がある。教員が一丸となって、どうすれば社会の各方面で活躍する薬剤師を育成できるのかを考え、前向きに改革に取り組む薬系大学が増えてほしい。