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製薬業界に広がるMBOの行方

2023年12月01日 (金)

 国内一般用医薬品最大手の大正製薬ホールディングスが24日、創業家の上原茂副社長が代表を務める企業による株式公開買い付け(MBO)を行い、非上場化する方針を発表した。一般用医薬品のビジネスをインターネットに軸足を移すほか、医療用医薬品を手がける医薬事業では新規モダリティの獲得を視野に、導入やバイオ企業との提携を進めるなど中長期的な戦略を大幅に見直し、経営体制の立て直しを図るとしている。

 同社は今月、30歳以上の正社員を対象に実施した早期退職優遇制度で645人が応募したと発表したばかり。苦境の医薬事業について「リセット」との発言も出ていた。その直後のMBOだった。

 昨年4月、東京証券取引所の市場区分再編により「プライム」「スタンダード」「グロース」の3区分に変更され、株価を意識した経営など、上場企業に求められる要求が高まっていた。

 最近では、そのコスト負担が重荷と判断し、機動的な経営を行うために、敢えてMBOを行い上場を廃止する企業が増えている。実際、製薬業界でも大手CROの上場廃止が相次いだ。2021年にはイーピーエスHD、そして今月にはシミックHDがMBOを発表した。両社は黎明期から日本のCRO業界を牽引してきた国内大手で、創業者が一代で事業を築いてきた。

 これら両社が既存のCROビジネスは転換点にあると判断し、創薬やヘルスケアなどの新たな事業に先行投資したいと非上場化を選択したのは、注目すべき動きと言えるだろう。

 そこに、国内製薬企業では例がなかった大正製薬HDのMBOが発表された。オーナー企業である同社は、国内市場の低迷や相次ぐ薬価引き下げなどの環境下で、主力の一般用医薬品、さらに医療用医薬品の事業を再建するために、創業家が主導する形の経営体制を選択した。

 一方で、既に国内大手製薬企業はグローバル化に邁進している。世界で活躍する企業に相応しいSDGsへの取り組みやESG経営は当たり前になっており、このような取り組みが企業価値の向上につながる時代でもある。

 今後の製薬業界は、毎年薬価改定で企業ごとの体力の差がますます広がっていくことが予想される。特に中堅企業の中には新薬を出し続けられず、海外で勝負できない企業も出てくる可能性がある。

 そうなった時、新たな投資と上場コストとの見合いでMBOを選択する企業が出てくるかもしれない。製薬業界にオーナー企業が多いことを考えれば、あり得ない選択肢ではない。

 製薬企業もヘルスケア産業を標榜する時代である。「もの言う株主」や敵対的買収などのリスクを廃して、様々なビジネスの可能性を模索する国内企業が増えていく。そんな生き残りをかけた経営手段の一つにMBOが注目されてくるだろうか。



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