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業界の構造改革は、まだ第一幕

2023年12月08日 (金)

 今年は医薬品業界の危機が深まった年だった。薬価基準など諸制度などにより起きたドラッグラグ・ロス、供給不足、それに伴い薬という治療手段を医師、薬剤師から奪い、治療に悪影響が出ている。これは必要な医療を保障する国民皆保険制度を揺るがす大問題である。その収束の見通しは立っておらず、大変深刻な状態にある。

 問題を解決しようと現在、厚生労働省の中央社会保険医療協議会などで改革の具体化に向け大詰めを迎えている。これら諸施策とて最初の一歩と認識すべきだと考える。

 振り返ると、一昨年来、業界、行政に知悉する識者、そして読者からも問題の背景にある関連諸制度、商慣行の疲弊ぶりに、驚くほど強い危機感が表明された。この中で設置された厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が報告書で、長年指摘されることが少なかった薬価差のあり方を含め、改革の方向性を示した意義は大きい。

 果たして問題は改善されるのか。有識者検討会報告書を踏まえた中医協の議論を見ると、ドラッグラグ・ロス解消に向けたイノベーション評価は拡充される方向だ。

 議論で厚労省が、新薬創出等加算に関する企業要件・指標の撤廃を提案したことは評価したい。企業要件・指標は今や主要な開発の担い手である新興バイオ企業に不利に働き、製品評価と関係ないものだからだ。撤廃に賛否はあり、不首尾に終わっても、一度出された提案は、厚労省の意志そのものであり中期的に期待を持って注視したい。

 また、画期的新薬と言える早期アルツハイマー病薬「レケンビ」の薬価算定が議論の俎上に載ったことにも注目したい。エーザイが5月、介護費用の軽減など同剤の社会的価値を独自に算出し、公に問うたことが背景にある。企業自らが根拠ある意見を積極的に表明し、薬価算定のあり方を問うことは意義あることだ。続く企業が出てほしい。

 後発品では、新薬のように薬の評価より、安定供給が重視されることから、安定供給確保努力などの企業指標の創設は評価できる。ただし、指標内容や算定ルール見直しの方向性は厳しい印象がある。

 業界関係者の多くがメスを入れることを望んだ中間年改定、薬価差、調整幅のあり方は議論が尽くされていないのは残念である。

 顕在化した問題は、デフレを基調とした経済下で構築された薬価など諸制度と関係していることは否めない。

 インフレ基調へ変化した今、経済環境に合った制度、商慣行の構築が求められる。研究開発、薬価算定、製造、保管・運送、配送、価格交渉、診療・処方・調剤など、バリューチェーンに関わる諸制度、経営を変えることは必然だ。

 一連の改革と検討の気運を止めてはならない。来年以降も継続的に行わなければ光明は見えてこない。



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