はじめに
先日、2日間に渡り、日本ホスピタリティ推進協会が開催するホスピタリティコーディネーター養成講座を受講しました。コーディネーター資格取得には受講だけでなく、筆記試験、スピーチ審査、レポート提出が必要で、資格取得に少々ハードルが高い資格です。今は合否結果待ちのすこし緊張しているときですが、いい意味でホスピタリティ研修の概念が覆された学びの多い2日間でした。
今まで受講したことがあるホスピタリティ研修といえば、お辞儀の角度や笑顔の作り方など、マナー的なものが多かったです。もちろん、そういった講義内容もありましたが、大半が企業経営におけるホスピタリティの重要性をさまざまな観点から伝えてくれる内容でした。
満足のその先の感動へ
CSという言葉をご存じの方は多いと思います。CSとはCustomer Satisfaction(顧客満足度)の略で、商品・サービスに対する、顧客の満足度を測る指標です。顧客がサービスに満足するというのはどういう状態でしょうか?「満ち足りる」と書いて「満足」です。サービスに満足する状態とは、顧客が期待していた状況と現実が一致している状態です。
では顧客の期待はどこから生み出されているのでしょうか?
顧客を患者さまに置き換えて考えてみます。
期待が生み出されるヒントは医療機関や薬局のホームページにあります。みなさんは自分が勤めている医療機関や薬局のホームページを見たのはいつのことでしょうか?
例えばある医療機関のホームページに「スピーディーな対応をいたします」と書かれていたとします。その患者さまは毎日忙しく過ごし、時間がありません。そんなときにこの医療機関のホームページを見たら、自分のニーズと合っているなと判断し医療機関を受診します。そしてスピーディーに対応してくれたら期待していた状況と現実が一致しているので「満足」といえます。
でももし、そこにいるスタッフが世間話を好み、とても親身すぎる対応をしてくれたとします。その患者さまは早く帰りたい…早く帰って子どもに会いたい…と感じるでしょう。満足はせず、もしかしたらもうその医療機関に足を運ばなくなってしまうかもしれません。
そのスタッフは良かれと思ってした行動でも患者さまが抱いている期待とそぐわなくなってしまう可能性もあるのです。
これからの医療機関に求められるものは
それでは医療機関は患者さまに満足を感じて頂ければ十分なのでしょうか?
今まででしたらそれでよかったのかもしれません。
人口が増えていた時代、処方箋の発行率があがっていた時代であれば、満足を目指せば十分だと考えられます。それは新規の患者さまがいらして頂けたからです。ただこれからは人口が減りますし、そして薬局業界は、成熟市場になりつつあります。このような状況下では満足の一歩先「感動」を目指す必要があります。
患者さまの期待をこえることで患者さまは感動し、信頼感を感じることができるのです。ちなみに「感動」とは「いつものサービスにちょっとした気配りを感じて心に残る」ことです。
先ほどのスピーディーさをうたう医療機関で感動を感じてもらうにはどういったことがあるでしょうか?
たとえば、無駄のないスタッフの動きもそうでしょうし、待ち時間の少なくなる仕組み化にプラスしたスタッフのちょっとした声かけ、目くばせなどがあるかもしれません。
感動を感じることで患者さまは医療機関に信頼感を抱き、何かあったときにはまたいらしてくれますし、口コミで勧めてくれます。(ご高齢の方同士の地域のネットワークはとても強固なものだと感じています)
ホスピタリティの考えの中に「生涯顧客」と「永代顧客」というものがあります。信頼関係が深まると生涯その企業から商品を買う「生涯顧客」となり、さらにそれば続けば自分の子供も企業から商品を買う「永代顧客」となるとされています。これからは医療機関にもあてはまることではないでしょうか。患者さまと継続的な関係をつづけていくために、患者さまに感動を感じていただくのです。そして患者さまに感動を感じて頂くためには、ホスピタリティの質を高めるのです。
しかし、患者さまが感動を感じる基準はそれぞれですし、これが正解というマニュアル的なものではありません。それゆえに個々の医療機関や、薬局でスタッフ全員がホスピタリティの質を高めることは簡単ではありません。
さいごに
次回の記事では、チーム全体でホスピタリティの質を高めていくヒントをお伝えします。その時には、私の合否も分かっていますので、そちらも合わせて報告いたしますね。
Profile
坪田のり子(つぼたのりこ)
薬剤師/シュクリア代表
東邦大学薬学部を卒業後、地域密着型の調剤併設型ドラッグストアに入社し、調剤、OTC販売、在宅医療、行政と連携したセミナーの開催、医療専門職への研修など多岐にわたる業務に従事。
入社2年目で新人研修・OTC各論の講師を抜擢され、その後も社内社外問わず、学生、医療専門職、一般の方などさまざまな対象者に対し研修を行う。参加者の立場にたった分かりやすい研修が、実践につながる、と好評を得る。
その実績が認められ社内初の調剤事業部課長として、新卒採用・教育研修の責任者となる。社内の研修の体制を整備し、内定から若手までの一貫した研修体制を構築することで、内定者離脱、離職者低減に寄与する。
退職後、独立し、「薬剤師の成長が薬局の成長につながる」を志に薬局業界を中心に人材育成事業を展開。学びで終わらせない、「実践へのこだわり」がつまった研修設計が好評である。
こんな活動をしています
「患者さまとの絆を深め、選ばれる薬剤師へ」を志に地域で活躍する薬剤師の育成に力を入れています。
シュクリア
https://shukriya-yaku.com/
目次
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第1回 サービスとホスピタリティのちがい シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第2回 ホスピタリティは誰のために身につけるのか シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第3回 若手が身につけるホスピタリティとベテランが身につけるホスピタリティ シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第4回 医療機関における満足のその先の感動へ シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第5回 ホスピタリティあふれるチームになるために大事な2つのこと シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】最終回 チーム力を向上させるための質問力と認める力 シュクリア代表・坪田のり子