チーム力を向上させるための質問力と認める力
医療機関におけるスタッフ育成は、患者様からの多様なニーズに対応するため、そして薬局を取り巻く環境が日々変化する中で、医療機関が持続的に成長していくために不可欠な要素です。日々、患者様と向き合い、専門的な知識と丁寧な対応が求められるスタッフにとって、モチベーションを高く保ち、成長意欲を高めるための環境づくりは重要です。
今回は、薬局内のスタッフ育成をスムーズに進めるための具体的な方法として、コミュニケーションのあり方、特に質問の仕方について深く掘り下げていきます。メンバーが主体的に考え、行動できるような環境づくりは、個々の成長だけでなく、チーム全体の連携強化にもつながります。
メンバーが考えるようになる質問
薬局長などのリーダーや一緒に働くメンバー同士の日々のコミュニケーションに加え、コミュニケーションをとる上での仕組みを整備することが重要です。コミュニケーションをとるタイミングは、日々の業務中に加え、朝礼時、ミーティング時、個人面談時などあります。ここで共通していえることが、リーダーが一方的に伝達するのではなく、メンバー自身が考え発言できる環境を作り出すことです。そうした環境が整っていることで、メンバーが主体性を育み、自己決定感が向上し、働きがいが高まります。
環境を整え、主体性を発揮できる環境づくりの一例として、質問を工夫することが挙げられます。
メンバーが考えないようになってしまう【悪魔の質問】と主体的に考えられるようになる【天使の質問】があります。
たとえば、悪魔の質問では「なんでお釣りを間違えたのか?」と過去に焦点が当たります。
一方、天使の質問では「どうしたら次はお釣りを間違えないようにできるか?」と未来に焦点を当てます。
また、悪魔の質問では「あいさつしないとお客さまはどう感じる?」と否定的な言葉遣いとなりますが、天使の質問では「あいさつしたら、お客様はどう感じると思う?」と肯定的な声掛けに変わります。
ほめるの落とし穴
リーダーからメンバーへのコミュニケーションの中で用いられることが多いのが「褒める」という行為です。このことは「褒める」が優位な立場を前提として行われていることを示しています。
場合によってはこの優位性は強権的な権威に繋がる恐れさえあります。メンバーが褒める立場のリーダーの顔色を窺う構図は案外職場の身近な場面で見受けられる光景ではないでしょうか。このような場合に従業員スタッフの関心はお客様ではなくリーダーに向かってしまいます。おまけにリーダーが変わって新しいリーダーの褒める観点が違っていると、せっかく身に着けたはずの良いとされた行動習慣がすぐになくなってしまいかねません。
本来現場で求められる良い行動習慣は患者様からの視点に立って想定されることが基本です。リーダーの交替によって大きく左右されるものではないはずです。
では「褒める」の変わりに何をすれば良いのでしょうか?
それは「認める」です。
たとえば、待合室で不安げな表情でキョロキョロしている患者様に「どうしましたか?」と声をかけたスタッフに対して、「君も大したものじゃないか」と褒めるのではなく、「声をかけていたね」と認める。
「新人の〇〇さん、患者様への丁寧な言葉遣いは、とても好印象でした。」や「〇〇さんのあの意見のおかげで、みんなの残業が少し減ったね」など、行動を具体的に認めることで、上下関係に縛られない患者様本位の行動につながっていくのです。
さいごに
医療機関におけるスタッフ育成は、一方的な指示や評価ではなく、メンバーが主体的に考え、行動できるような環境づくりが重要です。そのために、コミュニケーションの仕方を工夫し、特に質問の仕方に注意を払うことが効果的です。
「悪魔の質問」ではなく、「天使の質問」を用いることで、メンバーは過去の失敗にとらわれることなく、未来に向けて改善策を考え出すことができます。また、「褒める」のではなく、「認める」という姿勢で接し、「〇〇さんの丁寧な説明は、患者様からとても好評でした。」など、具体的な行動を認めることで、メンバーはリーダーの顔色をうかがうことなく、患者様本位の行動を自然と身につけることができます。
これらの方法を実践することで、スタッフは自信を持って業務に取り組み、患者様への対応がより丁寧になり、温かい言葉かけが増えるなど、患者様満足度の向上につながっていくことができるでしょう。ひいては、スタッフのモチベーション向上、チームワークの強化にもつながり、結果的に薬局全体の活性化へと繋がります。
(おわり)
Profile
坪田のり子(つぼたのりこ)
薬剤師/シュクリア代表
東邦大学薬学部を卒業後、地域密着型の調剤併設型ドラッグストアに入社し、調剤、OTC販売、在宅医療、行政と連携したセミナーの開催、医療専門職への研修など多岐にわたる業務に従事。
入社2年目で新人研修・OTC各論の講師を抜擢され、その後も社内社外問わず、学生、医療専門職、一般の方などさまざまな対象者に対し研修を行う。参加者の立場にたった分かりやすい研修が、実践につながる、と好評を得る。
その実績が認められ社内初の調剤事業部課長として、新卒採用・教育研修の責任者となる。社内の研修の体制を整備し、内定から若手までの一貫した研修体制を構築することで、内定者離脱、離職者低減に寄与する。
退職後、独立し、「薬剤師の成長が薬局の成長につながる」を志に薬局業界を中心に人材育成事業を展開。学びで終わらせない、「実践へのこだわり」がつまった研修設計が好評である。
こんな活動をしています
「患者さまとの絆を深め、選ばれる薬剤師へ」を志に地域で活躍する薬剤師の育成に力を入れています。
シュクリア
https://shukriya-yaku.com/
目次
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第1回 サービスとホスピタリティのちがい シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第2回 ホスピタリティは誰のために身につけるのか シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第3回 若手が身につけるホスピタリティとベテランが身につけるホスピタリティ シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第4回 医療機関における満足のその先の感動へ シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】第5回 ホスピタリティあふれるチームになるために大事な2つのこと シュクリア代表・坪田のり子
- 【薬剤師の実務に生かせるホスピタリティ】最終回 チーム力を向上させるための質問力と認める力 シュクリア代表・坪田のり子