前回のポイント
- 多様性の受容と変化への適応:インドは多様な文化や影響を受け入れ、変化に柔軟に対応してきた歴史を持つ。
- 精神性と革新の融合:インドの文化は、精神性、伝統、そして革新がユニークに融合したものであり、それが国の進化の特徴ともいえる。
- 調和と共存の教訓:インドの歴史は、多様性の統一を象徴し、世界に調和と共存の教訓を提供し続けている。
インドの他国との同盟とその影響を探る
インドの戦略的同盟:歴史により進化する英国、ロシア、日本との関係
インドの英国、ロシア、日本との外交関係は、インドの世界的な影響力の拡大を反映しており、独自の歴史的背景や戦略的、経済的、文化的な絆によって形作られています。植民地時代~冷戦時代の協力、戦後の連携に至るまで、これらの同盟はインドの回復力や適応力など、相互の尊敬に基づいた関係を強調しています。今回はインドと各国の関係を見ていきましょう。
英国:複雑な植民地時代の遺産とインドへの影響
インドと英国の関係は現代史の中でも最も深く、複雑なものの一つであり、植民地時代に深く根ざしています。英国は17世紀初頭に東インドの会社を通じてインドに初めて到達しました。時間の経過とともにその影響力は拡大し、1857年のインド大反乱を経て、英国王室は19世紀半ばにインドを正式に支配下に置き、100年間の植民地支配が始まりました。この時代は、インドの政治、社会、経済に深い影響を与え、正と負の両方の遺産をつくりました。
歴史的に、インドは豊かな国であり、その広大な資源と富の魅力によって外国からの侵略を引き寄せていました。良い側面としては、英国の支配により鉄道、電報、道路、港湾などのインフラ開発が進み、インドの広大な地域を結びつけ貿易が促進され、さらに西洋式の教育、工学、科学、法制度が導入されたことでガバナンスの近代化へ繋がります。また、西洋医学も主流となり、英国の医科大学、病院、製薬会社が優位に立った結果、多くの著名なインド人専門家が英国の教育機関で教育を受け、インドの近代化に貢献しました。英国帝国は様々な分野でインドの才能を活用し、インド人労働者や専門家を用いて世界中で影響力を拡大しました。この遺産は、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、フィジー、アフリカ諸国、ヨーロッパなど、かつての英国領に住むインド人コミュニティに今でも見られます。
一方で、英国の支配には多くのマイナス面もありました。かつて、インドでは個人のスキルや能力に応じた役割が整然と分かれた労働分業があり、このシステムは雇用と安定を確保し、人々が充実した生活を送ることを可能にしていました。しかし、最終的にインドの支配を確立した英国は、この構造を硬直した「カースト制度」と解釈しました。インド人は自らの職業を専門職として世代を経ていましたが、英国はこれらの役割を英国の解釈や目的に基づいて見直し、修正したのです。また経済的には、インドの資源が大量に搾取されたことで莫大な富が英国に移転し、特にアーユルヴェーダと呼ばれるインドの伝統的な医療についても西洋医学が優先され、自然療法に基づくインドの豊かな知識は軽視されました。また、英国の政策はインドの文化的遺産を無視し、飢饉や貧困を悪化させる要因ともなりました。しかし、インドの文化的な回復力は、ヒンドゥー教の哲学である許しとカルマの価値観に根ざしていることから、1947年の独立後も英国との前向きな関係を維持することができました。今日では、インドと英国は貿易、教育、技術の分野で強固な関係を築いており、特に英国に住むインド系移民は、これらの関係を強化する上で重要な役割を果たしています。
インドの哲学は、前向きな見通しを促し、許しとその土地への敬意を強調しています。そのため、インド人はどこに住んでも、その国を母国として尊重し、統合していきます。これを象徴するのが、インド系のルーツを持つ元英国首相リシ・スナク氏であり、両国の絆を体現しています。
ロシア:冷戦時代の戦略的パートナー
英国との植民地関係とは異なり、ロシアとの関係は相互の尊重と戦略的協力に基づいています。冷戦時代、インドは非同盟の立場をとりながらソビエト連邦を信頼できる同盟国として迎え入れ、防衛や産業の近代化を進めました。ソビエト連邦はカシミール問題を含む国際的な問題でインドを支持し、特に1971年のバングラデシュ独立戦争では、軍事的および技術的支援を提供しました。
その後もこのパートナーシップは、共同軍事演習、原子力や製鉄所を含む技術移転、宇宙開発での協力へと広がっていきます。また、20世紀中頃にはインド映画がロシアで人気を博し、文化交流も盛んになりました。ソビエト連邦の崩壊後も、インドとロシアは強固な関係を維持しており、ロシアは引き続きインドにとって主要な防衛供給国であり、重要なプロジェクトのパートナーです。両国の関係は、共有された地政学的利益と、よりバランスの取れた世界秩序を形成しようという共通の願望によって支えられています。
日本:戦後の相互尊重と成長の同盟
インドと日本の関係は比較的新しいものの、最も躍動的で有望なパートナーシップの一つに発展しています。この絆は第二次世界大戦に遡り、日本はインドの民族主義者スバス・チャンドラ・ボースのインド独立運動を支援しました。ボースの率いるインド国民軍(INA)は日本の支援を受け、両国のパートナーシップは相互の尊重に基づいて始まりました。インドと日本は戦略的パートナーであるだけでなく、文化的および宗教的な結びつきも持っており、仏教が両国をつなぐ中核的な存在となっています。
今回の結論
英国、ロシア、日本とのインドの戦略的同盟は、インドのグローバルな影響力の拡大を反映しており、歴史的、文化的、経済的な絆によって形作られています。英国との関係は、複雑な植民地時代を経て、貿易、教育、技術分野で強固なパートナーシップに発展しました。ロシアとの関係は、冷戦時代の防衛および戦略的協力に基づく長い歴史を持ちます。日本との関係は比較的新しいものの、仏教を中心とした文化的価値観を共有し、相互尊重を基盤とした急速な成長が見られます。これらの同盟は、インドの適応力と回復力の強さを示しています。
プロフィール
アイ・ティ・イー株式会社
CEO パンカジ・ガルグ
国立工科大学でコンピューターサイエンス工学を専攻し、米国フォックスビジネススクールにてMBAを取得。34年前に日本に移住以降、AIやロボティクス、半導体等の分野を専門として神戸製鋼所、安川電機、インテル、NASA/カリフォルニア工科大学のスタートアップなどで活躍。専門分野はR&D、エンジニアリング、製品製造、そしてグローバル規模の技術営業およびマーケティングなど多岐にわたり、半導体、グリーンエネルギー、次世代エネルギーに関する30以上の特許を保有しています。
気候変動やフードロス、医薬品のコールドチェーン不足などのグローバルな課題に取り組む使命に駆られ、シームレスでグローバルスタンダードとなる低温物流システムを開発することを目指し、インテルを退社後、2007年にアイ・ティ・イー株式会社(ITE)を完全自己資金で設立しました。
現在、ITEは国内外250社以上のクライアントにサービスを提供し、インド市場でも成長を続けています。日本の技術革新と“ものづくり”の品質へのこだわりに触発され、ビジネスの卓越性、誠実さ、継続的改善の文化を育んできました。指導原則は、バガヴァット・ギーターに示されたカルマの教えや改善(カイゼン)に基づき、特にアメリカでの豊富なグローバルビジネス経験から形成された、ITEの顧客第一の哲学を形作っています。
また、DX、半導体、医療用コールドチェーン、製薬、GDP/GMP基準、ライフサイエンス、アーユルヴェーダ、ヨガ、食品産業に関する深い知識を持っています。この多様な知識は、彼が複数の分野で成功する上で重要な役割を果たし、コールドチェーン物流、気候変動対策、グリーンエネルギー分野におけるビジョナリーリーダーとしての地位を確立しています。
アイ・ティ・イー株式会社
2007年創業以降、国内外250以上の企業に、独自の「IceBattery(R)システム」という低温物流全体のプラットホーム、及びDXソリューションを提供している温度管理専門企業。IceBattery(R)製品はすべて自社で設計・開発されており、IceBattery(R)システムは4Lボックスから40FTの大型コンテナ/トラックまで、すべての輸送手段における庫内温度を均一に長時間維持することができる画期的な保冷システムである。
コラムへの想い
私は35年以上日本に住んでおり、インドの価値観を保ちながら、個人としてこの国の一部になりたいと常に考えてきました。私の家族はビジネスに関わる家庭で、祖父の兄が1959年に在日インド大使館の副大使を務めるなど、世界中に親戚や友人がいます。この経験から、私は国、文化、人々を少し違った視点で見るようになりました。日本とインドは歴史、文化、宗教に深く根ざした強い絆を持ち、互いに補完し合う関係にあります。第二次世界大戦中の日本のインド支援や、両国間の精神的つながりはその証です。
私は、このシナジーを活かし、インドのグローバルリーダーシップと日本のビジネス、製造、運営の卓越性を結びつける強力なパートナーシップを築くことを信じています。共に、仏教とカルマの真髄を体現し、世界を一つの家族として平和と繁栄、知恵をもたらす未来を切り開けると確信しています。
目次
- 【インド市場の特性と文化的理解で拓く新たな可能性】第1回 インドの歴史と文化精神の旅 アイ・ティ・イーCEO パンカジ・ガルグ
- 【インド市場の特性と文化的理解で拓く新たな可能性】第2回 インドの他国との同盟とその影響を探る アイ・ティ・イーCEO パンカジ・ガルグ
- 【インド市場の特性と文化的理解で拓く新たな可能性】第3回 インドの教育の進化 アイ・ティ・イーCEO パンカジ・ガルグ
- 【インド市場の特性と文化的理解で拓く新たな可能性】第4回 独立後のインド産業成長:国有企業、民間企業、海外協力の役割 アイ・ティ・イーCEO パンカジ・ガルグ